卓球の石川佳純選手やサーフィンの前田マヒナ選手などのアスリートが、さまざまなプレッシャーに立ち向かう姿を描いてきた「SK-II STUDIO」。本年最後となる「それぞれのスタジアム」は、パンデミックの影響を強く受けた、女性経営者や起業家にスポットライトを当てた作品。さらに、「SK-II STUDIO」の動画作品の再生回数に応じて、運命を変えようと踏み出す女性への支援活動に拠出する#CHANGEDESTINY資金も始動した。今回は、「それぞれのスタジアム」にも登場する、日本のエシカルジュエリーの先駆けであるブランド「ハスナ(HASUNA)」のCEO・白木夏子にインタビュー。エシカルなものづくりや、女性起業家としての、今の日本の状況に対する思いを伺った。
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国連職員になりたかった学生時代。
自分なりに世界を助ける起業の道へ。白木さんは、もともとものづくりやファッションにご興味があったのですか?
母がファッションブランドのインハウスデザイナーだったんです。結婚後仕事は辞めていたのですが、家の中でよく洋服を作っていて。また、愛知県一宮市に20年ほど住んでいたことも大きいです。一宮市は繊維産業で栄えた町で、洋服の縫製工場や生地を作る工場が周りにいっぱいあり、そういう環境で育ってきたので、小さいころからデザインやものを作る仕事にとても興味がありました。それに加えて、自分自身、化石や石集めが好きな子どもで。古代の何千万年、何千億年という時間を経た化石や宝石に、とても魅力を感じていました。けれど、ジュエリーで生計を立てていこうとは全く考えておらず、国連職員になりたかったんです。
ジュエラーを目指したきっかけを教えてください。
たまたま短大生のころにフォトジャーナリストの方の講演を聞いてすごく感化され、将来NPOや国連職員として働きたいと思い、イギリスの大学に留学しました。大学では貧困や環境問題の勉強をして、フィールドワークとしてインドやバングラデシュへ行ったときに、鉱山で働いている人たちと出会ったんです。彼らがとても過酷な労働環境の中、低賃金であったり、子どもながらに働かされている現状を目の当たりにして、衝撃を受けました。私たちはすごく高いお金を払って宝石を買ったり、鉱物でできたパソコンやカメラ、化粧品を使っているのに、どうして末端の人たちはこんなに苦しくて貧しい生活をしているんだろう、これをなんとかできないかなと思うようになりました。卒業後は、国連で半年ほどインターンしていたのですが、「そういう状況を私はビジネスの中で変えていきたい」「世界を助けられるようなビジネスがしたい」と思い、いったん金融業界に就職して働きながら起業の準備をし、独立後「ハスナ(HASUNA)」を立ち上げたんです。
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「エシカル」の取り組みは国内外に。
日本の職人も応援したい。白木さんが起業されたのは2009年ですが、当時はまだ、環境保全や社会貢献をものづくりと結びつける、いわゆる「エシカル」な取り組みをしている企業はとても少なかったように思います。「エシカル」という言葉自体も、日本では一般的ではありませんでした。
当時、私自身やりたいことを模索している最中で、貧困層の人が削ったり採掘しているジュエリーの原材料を、フェアトレードで買付して販売する、もしくは使われなくなったジュエリーを再利用して販売するというような、人と社会と自然環境に配慮したジュエリーを作りたいと考えるようになりました。そこでアメリカやイギリスではそういうものを「エシカルジュエリー」と呼んでいると知り、「このキーワードいいな」と思ったんです。
フェアトレードという言葉は日本でも知られていましたが、それだけだと貧困層の人から適正価格で仕入れるという意味だけになってしまう。私はそれだけじゃなく、日本の職人さんもサポートしたいと思っていて。日本にある素材を使ったり、リサイクルという概念も取り入れたかったので、「倫理的な、道徳的な」という意味をあらわし、いろいろな概念を包括した「エシカル」という言葉を使うようになりました。でもこのころはネットで「エシカル」と検索しても、全然引っかからない。誰も使っていないキーワードだったんです。「エシカルジュエリー」ということで「ハスナ」を立ち上げたのですが、「エシカル」という言葉が耳慣れないので、業界関係者の方も「何それ?」という感じでした。取材していただいても、「エシカルでは通じないから、フェアトレードジュエリーって書いてもいいですか?」と言われてしまったり。みなさんの辞書にまだない言葉を伝えるのは難しいなと感じました。繰り返し説明して、私たちの思いを伝えていくしかないんですよね。
今ブランドとして特に力を入れている取り組みはありますか?
日本のジュエリー業界の元気がなくなっているのがとても気になっています。バブルのころは、国内だけで市場規模が3兆円くらいあったのですが、今は約9千億円。3分の1以下になっています。しかも国内ブランドでさえ、日本の職人さんへの発注を減らして、海外の安い労働力へ発注することが増えていて、日本の職人さんは、とても苦しい状況に置かれているのが現実。「ハスナ」では創業時から仕上げを日本の職人さんにお願いしているのですが、最近はさらに、愛媛県産の真珠や九州でとれるサンゴのような国内の素材を積極的に使うようにし、養殖の職人さんやサンゴを採掘する職人さん、それらを磨く職人さんといった、より多くの職人さんに少しでも日が当たるようにしています。
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ペルー産の金、愛媛県産の真珠など、人権や環境に配慮した素材で作られている「ハスナ」のエシカルジュエリー。
コロナ禍で社員一丸となって挑戦した、
チャリティープロジェクト。
温かい気持ちが世界を繋げていく。「ハスナ」では海外の生産者とも一緒にジュエリーを作っていらっしゃいます。昨年からのコロナの影響はありましたか?
生産地に行けないということが、私にとっては残念です。ダイヤモンドの研磨はインドの工場と契約しているのですが、その工場に「行きます!」とお伝えしていたのに、この状況になって悶々としています。「ハスナ」としては、1回目の緊急事態宣言のときは店をクローズしてしまったので厳しい状況でしたけれど、幸いなことにそれ以降はそこまで影響は受けずに済んでいます。
ブランドとして、日本の医療従事者を応援するNPOへの寄付をされているそうですが、経緯を教えてください。
これは私が、というよりも社員が提案してくれました。緊急事態宣言下で、社内もみんな不安だったと思うのですが、社員から「ジュエリーブランドとして、私たちに何かできることはないか」「みんなで考えて何かやりたい」という声が上がって。そういう社員の姿勢を見て、自分の会社ながら素晴らしいなと思いました。提案の内容は、デッドストックの素材や使われなくなった石の再活用。私たちのブランドでも、欠けちゃったり、内包物が多かったりする、どうしても使うことができない半端石が出てしまうんです。そういった、商品にはできないけれど価値はある、という石を使ってネックレスやブレスレットを作るアクセサリーキットを販売し、その売上げの一部を医療従事者の方へ寄付するというプロジェクトが立ち上がりました。
実際に販売してみて、反応はいかがでしたか?
今までに第三弾まで販売して、毎回結構な量を用意していたのですが、ほぼすべて即完売。みなさんすごく共感してくださったみたいです。お客様から直接「コロナに対して何もできないと思っていたけれど、アクセサリーキットを作ることが貢献になるのはすごくうれしい」という言葉がいくつも届きました。お子さんとステイホームしているときに、一緒にアクセサリー作りをしている画像をインスタにアップしてくださる方がいて、微笑ましい様子も目にしました。私自身、うちのお客様は誰かに貢献したいという温かい気持ちを持っていらっしゃる方が本当に多いんだ、と実感する機会になり、とても感動しました。
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パキスタン、インドなどをはじめ、「ハスナ」の取引先は世界10カ国以上。
今のジェンダー・ギャップの状況を日本人が認識することから、
女性起業家がより働きやすい環境が生まれる。SK-IIでは、今年3月に#CHANGEDESTINY資金を設立し、日本の女性起業家を支援するプログラムに活用しています。また、白木さんにもご登場いただいている、SK-II Cityというサイトではバーチャルシティ内で映像作品「それぞれのスタジアム」のほか、さまざまな女性起業家のインタビューを見ることができます。白木さんご自身は、今の日本の女性起業家の置かれている状況について思うところはありますか?
私はどちらかというと「女性だから」ということで注目してもらって、下駄を履かせてもらったところがあるので、享受しているメリットのほうが多いとは思っています。ですが、日本は世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数が156カ国中120位(2021年)。世界から女性差別が激しい国と見られていることが、すごく気になっています。
ダボス会議のような国際会議にときどき出させていただくのですが、そういうところで海外の人に「日本の女性って本当に大変なんだってね」「あなた頑張ってるわね」と言われるたびに、その気持ちはうれしい反面、恥ずかしいと思う気持ちもあって。こういう世界からの目や、日本が非常に男性中心の社会だということに、日本国内にいる人たちが気づいていないことが大きな問題だと感じます。ですから、SK-IIのような女性に寄り添ってきたブランドがこういう取り組みをすることは、今の状況に気がつく人や、女性起業家を応援する人が増えることにも繋がるので、とても意義があると思います。
今後「ハスナ」で取り組みたいことや挑戦したいことを教えてください。
日本の職人さんにもっとフォーカスしたいですね。メイド・イン・ジャパンで、日本らしいデザインでジュエリーを作っていきたいと思っていて。「日本のデザインってなんだろう」「日本の美しさってなんだろう」というのを、ジュエリーの中に込めていきたい、そしてそれを世界の人に知っていただけたらと思っています。
日本の美しさには、光をテーマにしたものが多いなと思うんです。諸説ありますが、日本の最高神といわれる天照大御神は太陽神。アジアにも太陽礼拝や太陽信仰が多く見られますが、それが日本においては女神なんです。実は「ハスナ」では、神社の朝の光というブランディングイメージを随所に入れていて、キービジュアルも光をテーマに撮影していただいたり、インスタでも光にこだわった写真を使っています。光って一面的ではなくて多面的で、日によって違うもの。人によってもイメージが違います。日本の神様もそうで、八百万の神様は、いろんなかたちがあっていろんな場所にいる。そういう東洋的な思想をブランドの中心に据えているので、そこも注目されるといいなと思っています。
白木さんご自身、今後新たに挑戦したいことはありますか?
今は経営とアートをどうやって結びつけるのか、ということを考えています。利益の追求ありきではなく、社会貢献だけでもない。豊かさをつくるアートを、どのように生かしていくか。経営とアートとエシカルな部分、この3つのバランスをどうやってとっていくのかということが個人的な興味だったりするんです。私自身絵を描くので、そういうこともうまく融合できたらいいなと思います。
あとは自然の中で過ごすこと。コロナ禍の中、都心での生活が息苦しく思えてしまって、去年家族で鎌倉に引っ越しました。家のすぐ裏に山があるような自然の中に住んでいるんですが、これからも自然からのインスピレーションや、自然に生かされていることを実感しながら、ものづくりをしていきたいです。
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「SK-II STUDIO」が手がける、本年最後の作品。オリンピックスタジアムの中で輝くはずだったアスリートの夢だけでなく、スタジアムの外で仕事に邁進する起業家たちの夢もコロナ禍でなかなか思い通りに前に進まない。そんな中、夢と希望を忘れず頑張っている女性起業家・中小企業経営者にフォーカス。「希望を持ち続ければ道は開ける」というメッセージを伝えている。こちらは白木夏子が登場したムービー。
「エシカル」という言葉が日本でまだ一般的ではないころから、第一線でその道を切り拓いてきた白木さん。コロナという世界的な困難の中でも、新しいチャレンジを続け、さらにその先の未来も見据える姿は、私たちに勇気とパワーを与えてくれる。自分の将来や、進むべき道に迷ったとき、「SK-II City」に登場する彼女たちの姿はきっとヒントになるはず。ぜひアクセスしてみて。