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どんな人も、居心地よく過ごせる空間に。 老舗銭湯の番頭が語る、もてなしの極意。 【中条あやみが学ぶ、プロたちの心意気vol.6】

中条あやみがインタビュアーとなり、プロに仕事の極意を聞く人気連載。今回は幼い頃から大好きだったという空間、銭湯にフォーカス。創業80年を超える高円寺の老舗「小杉湯」にお邪魔し、番頭さんの仕事を覗かせてもらうことに。いまでも時間ができると1人で銭湯に出向き、サウナで整って帰るのが楽しみだと語る彼女。マニアならではの視点で、めくるめく銭湯ワールドの魅力に迫ります。


 

【話を伺ったのは…小杉湯の番頭・レイソン美帆さん】

今回の舞台は高円寺の北口、純情商店街から一歩裏手に入った「小杉湯」。1933年に創業、3代目の店主が切り盛りするこの銭湯で、店の顔として親しまれているのが番頭のレイソン美帆さん。もともとこの銭湯の常連で、銀行に勤務していた20代の頃、3代目の奥さんに声をかけられたことをきっかけに、気づいたら店の一員に。今年の3月に出産、現在は絶賛育児中というけれど、同僚とは家族のような間柄で、今でも定期的に店に顔を出している。

「玄関をあがると番台があって、浴場には大きな富士山が描かれていて。昔ながらの懐かしい香りがするけれど、中は驚くほどきれい。一目でいい銭湯だとわかるし、美帆さんが惚れ込んだのも納得です(中条あやみ)」

常連だった時期を合わせると、小杉湯との付き合いも9年目という美帆さん。ここは銀行員時代からの心の拠り所で、顔見知りのお客さんや番頭さんと近況報告するのがとにかく楽しく、働き始めてからは時間の感覚を忘れるほど仕事に没頭したそう。そんな美帆さんの銭湯に対する思いは、中条さんが銭湯に惹かれる理由ともどこかリンクする。

「銭湯の良さって、やっぱり“人”にあると思う。下町っぽい交流が残っているというのかな。裸の付き合いだから、心の距離もぐっと近づく気がします(中条あやみ)」

小杉湯は3代目の平松佑介さんが代表に就任してから法人化され、現在は30名を超えるスタッフによって昼と夜のシフト制で切り盛りされている。例えば美帆さんの場合、午前に事務作業をこなしたら、午後からフロアに移動。風呂場と脱衣所をすみずみまでチェックし、店のポップを書き換えたりしながら、15時30分にお客さんを迎える。開店後は番台に立つこともあれば、事務作業に戻ったりとさまざま。18時頃には退勤し、その後はバトンを受け継いだスタッフが深夜までの業務を担い、閉店後は約2時間かけて清掃を行う。

「閉店後の清掃に加え、翌日もスタッフが厳しくチェックしているから、清潔さが保たれているんですね。やっぱりキレイな銭湯じゃないと気持ちよくないし、友達もついてきてくれないんですよ。だからすごくありがたいなって(中条あやみ)」

番頭の仕事のなかで、最も重要な業務といっていいのが清掃。小杉湯は鏡も蛇口も床のタイルも、どこを見ても水垢は一切なくピカピカ。ここまでキレイに仕上げるにはきっとコツがいるはず、と秘密を美帆さんに尋ねてみた。「銭湯だからって特別なやり方は行っていないです。清掃で一番大切なのは、“その日の汚れはその日に落とす”。そして、使う人のことを考えて掃除をすること(レイソン美帆)」

小杉湯の魅力は、レトロな空間や清潔さだけじゃない。大人から子供まで幅広い層に楽しんでもらえるよう、名物となるミルク風呂を筆頭に、週替わり&日替わりで楽しめる多彩なお風呂を用意。“もったいない風呂”と称し、全国の生産者や小売店と提携し、廃棄になるはずの食材(シークヮーサー、日本酒、チョコレートなど)を再利用してオリジナル風呂を提供したり、ときにはアルバイトの学生さんからフレッシュなアイデアをもらったりと、老舗でありながら新しい挑戦も試みている。

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何をするにも楽しくて仕方がない。
ひょんなことから出会えた天職。

中条あやみ(以下A):美帆さんはどんなご縁で、小杉湯で働くようになったんですか?

レイソン美帆(以下M):銀行員として働いていたとき、会社帰りにここに寄るのが楽しみで。開店と同時にお風呂に入る生活を3年くらい続けていたら、ある日、3代目の奥さんに「ここで働いてみない?」と声をかけられたんです。

A:お店から、まさかのスカウト!

M:声をかけてくれたのがとてもうれしかったのを覚えています。ちょうど人生を模索していた時期だったのも重なって、働いてみようと思いました。

A:銀行のお仕事とは180度異なりそうですが、戸惑いはなかったですか?

M:それが掃除するのもタオルを畳むのも、何をするにも楽しくて! 気づいたらあっという間に時間が過ぎていて、働いている感覚がまったくなかったんです。

A:えー、それは天職ですね!

M:銭湯って本当に色々な方々がいらっしゃいます。疲れたとき、元気がほしいとき、ひとりで寂しさを感じたとき、そんなときに、居心地がいいなとか、懐かしさを感じてもらえたらうれしいです。

A:確かに。寂しさを感じたときに、行きたくなるかもしれないです。東京にいると、ときどき人と仲良くなる方法を忘れそうになるけど、銭湯にいくと地元にいたときの感覚が蘇るというか。

M:話さなくても、そこにいるだけで人間味を感じられる場所なんですよね。

A:そう! この間初めていった銭湯で、おばちゃんがお菓子をくれたんですけど、あれも嬉しかったなあ。

「良い銭湯」に共通しているのは、
どんな人も受け入れる、懐の深さ。

中条あやみ(以下A):私、実は銭湯やサウナを巡るのが趣味で。地元の大阪にもお気に入りの場所があるんですが、銭湯ってちょっと下町っぽい文化が残っているから好きなんです。

レイソン美帆(以下M):人との距離感がちょうどいいんですよね。

A:いまでも時間を見つけては、新しい場所を開拓しています。しかもお店によって、こだわりが違うのが面白い。特に小杉湯は高円寺の街のムードに溶け込んでいて、すごく魅力的だなと思いました。

M:私も上京して初めて高円寺に来て、そこからこの街が大好きなんです。良い銭湯って雑多な街にあるんですよ。誰が来ても受け入れてくれるような。

A:わかります。銭湯にいる人ってみんな温かいけど、良い意味で放っておいてくれますよね。そこが好き(笑)。私もぜひやってみたいんのですが、番台に立つときの心得ってあるのでしょうか?

M:お客さんが入ってきた瞬間に、次もその人が来てくれるかの勝負が決まると思っています。だから10秒でお客さんの心をつかむつもりで、感謝の気持ちも込めながら「こんにちは」と迎え入れるようにします。丁寧にやるのなら、次のお客さんをお待たせしてもいいとも思っていて。

A:確かに心をこめて挨拶されると、また来たいなと思っちゃう。

M:大きなお風呂にみんなで一緒に入るこの場所に、色んな人を迎え入れたいです。常連さんも、たまにだけ立ち寄る人たちも、そして年寄りから子供まで。お風呂に入ればみんな裸になるんだし、銭湯では肩書きや職業、立場も関係ないと思っています。だからお客さんの名前もほとんど知らないし、私から聞くこともないんです。小杉湯に来てくれるお客さんみんなが私にとっての家族。とにかく来て気持ちよく帰ってほしい、それだけなんです。

関わる人すべてへの感謝の気持ちが
ポジティブな循環を生んでいく。

中条あやみ(以下A):今回取材していて印象的だったのが、スタッフの仲の良さ! みなさん自分のシフトが入っていない日でも、手が足りていなければ手伝い、そしてお風呂に入って帰られるとか。

レイソン美帆(以下M):スタッフは家族同然ですね。いまは36名で運営していますが、業務に関わっている人すべて含めるともっとたくさんの人がいます。荷物を運んでくれる人、お風呂の材料を提供してくれる生産者さん、あとお客さんも欠けては絶対にダメ。小杉湯を続けていけるのは、お客さんが足を運んでくれるからこそだと思うので。

A:美帆さんってお客さんはもちろん、仲間のことまで配慮できる、とても度量が広い方。本当に人を迎え入れるプロだなって。銭湯の仕事は一人では成立しない。だからこそ常に誰かを思いながら仕事をすることが大事なんですね。

M:ここに来る前は、カチッと畏まった仕事をしていたので、人を迎え入れるときの心得はすべて小杉湯で教えてもらったんです。結果、そのままの自分でいいんだと気づいて。ありのままの自分を受け入れてもらえたのが嬉しかったから、今度は私がお客様をまっさらな状態で迎えたいなと。

A:自分がされて嬉しかったから、相手にもしてあげたい。それが原点になっていると。

M:みんなただでさえ毎日頑張っているから、ここでは何も頑張らなくていいんだよって。足りないところはお互いで補えばいいんです。

A:そうやって受け入れてくれる方がいると思うと、通っていても安心感が違いますね。

M:あとスタッフにいつも言うのが、小杉湯を利用する人だけがお客様じゃないということ。店の前を通る人にも挨拶したり手を振ることで、銭湯に入らなくても嬉しい気分になってもらう。そういう光景をつくれたら120点だなと思います。

A:とても素敵な心がけ! やっぱり人情あるところに人は集まっていきますよね。今日は素敵なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

PHOTO & VIDEO: YUKI KUMAGAI
HAIR & MAKE-UP: HARUKA TAZAKI
STYLING: KUMIKO SANNOMARU @ KIKI INC.
WRITER: YURI TANAKA
EDITOR: YUKIKO MOROOKA

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