今、そして未来の自分と向き合うガール世代のために、人生の先輩からのメッセージ。今回は、AKB48在籍時にはGIRL OF THE MONTHにも登場、アイドルから経営者へとキャリアをシフトした小嶋陽菜。自身の会社を立ち上げ、CCOとしてブランドやショップなどを手がける、ストラテジックな彼女。SNSやインターネットと上手に向き合い、時代の波に乗り続けるこじはる流の処世術から、毎日を彩り豊かに生きるためのヒントを探そう。
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30代でのステップのために一度リセット。29歳でアイドル卒業を決断した理由。
AKB48の1期生としてデビューし、29歳で卒業するまでアイドルとして第一線で活躍。卒業を決めたときには、すでに次のステップへのビジョンがあったのでしょうか。
それが何もなかったんです。29歳になったとき、20代はアイドルとして駆け抜けてきたので、このまま30代になるのも不安だなと思って……。じゃあ、どうしようと思ったときに、卒業という形で無理矢理にでも一度リセットして、新しいことを考えてみたい、そうやって20代最後の1年を過ごしたいと思い卒業を決めました。だから、次のステップのイメージが具体的に思い浮かんでいたわけではなくて(笑)。何か仕事が決まっていたとか、やりたいことが決まっていたとかでもなかったですね。卒業の翌年、2018年には自身のアパレルブランド「Her lip to(ハーリップトゥ)」を立ち上げています。何かきっかけがあったのでしょうか?
ファンの方とコミュニケーションの場所を作りたいと思ったことがきっかけです。当時、アイドルを卒業するとファンクラブを設立して、そこがファンの方との交流の場となる流れがあったと思うのですが、私の中ではファンクラブというものがあまりピンとこなくて……。だったら、自分らしく発信するためのプラットフォームとなるアプリを作りたいと思ったんです。アプリを通しての発信は、その当時としては新しい発想・取り組みだったと思うのですが。
そうなんです。今でいうYouTubeのVlogみたいに、自分の普段の私服やメイク、ライフスタイルを発信したり、チャットみたいな機能をつけて、ファンの方とコミュニケーションをとったり、質問に答えたりということをそのアプリの中でできたらと考えていました。その一環として、自分がいいなと思う洋服を数着だけ作って販売するようなこともできたらと思っていたんです。それでゆるっと動きはじめて……。でも、いろいろと考えているうちに、アプリの更新ってとても大変だということに気がつきました(笑)。今でこそノーコードで開発とか、個人でアプリが作れるサービスが出てきていると思うのですが、当時はそういうものがなかったので、SNSのように自分のタイミングで発信できないなら続かなそうだなと思い「じゃあ、私が今やりたいことはアプリじゃないんだ」と思い直しました。でも、そのときすでに洋服は作りはじめていたので、ブランドを作って小さくスタートしてみることにしました。 世の中の潮流とやりたいことのバランスをとりながら、小嶋さん自身が判断していたんですね。
当時は「個の時代」になるのではと言われていました。ひとつの組織に所属していたり、 誰から仕事をもらうという働き方だけではなく、 自分から何かを生んだり、 発信したりする仕事について考えるようになったことは、 世の中の流れとこれまでのキャリアで経験したことを踏まえると私 にとっては自然な流れでした。 今の小嶋さんの仕事や生き方に、アイドルとして活動していた10代、20代の経験が役立っていると感じることはありますか。
すべて役立っていると思います。人を見る目だったり、コミュニケーションの仕方だったり、今まで経験してきたことがすべて繋がって、蓄積され、資産になっていることを日々感じていますね。アイドルのときはパフォーマンスを通してサービスをファンの皆さんに届けるという形でしたが、今はアパレルやビューティという形でお客様に届けている。形は違えど、その気持ちは同じものがあるし、お客様がどういう反応をくださるかが喜びというところも同じ。当時の経験が生きていると思います。 -
期待に答えるためにはきちんとした組織作りを。経営者として何が必要かを見極める。
2020年にはブランドを株式会社化し「heart relation」を立ち上げ、ご自身がCCOに。組織化して、自分が役職につくということは、どのような考えからだったのでしょうか。
最初のワンピースを出した頃からずっとお客様はついてきてくださって、たくさんのリクエストをいただくのに、お客様の期待に組織のスピードがついていけなくなっているのを感じていたんです。本当にひょんなことからはじめたブランドだったので、ちゃんとした組織の体制になっていなかったということもありました。お客様の期待に応えるためには、しっかりした体制を作ることが必要だと感じて、自分の会社を立ち上げることにしたんです。それに、何より仲間が必要だと思ったんですよね。同じような熱量で一緒に頑張ってくれる仲間を集めたいと思ったときに、会社を作って自分で採用して、自分が動く必要があったということでした。今年の7月には待望のショップ「House of Herme(ハウス オブ エルメ)」もオープンしました。会社としては、チームでの活動がより活性化されていると思いますが、小嶋さん個人が自分らしくいるために大切だと思うことはどんなことですか?
自分らしくとは違うのですが、たくさんの人と関わることになったので、みんなが働きやすい環境を作るために、 いつもポジティブで明るくいようと思っています。もちろん苦しいときもあるのですが(笑)、それでも笑顔でいよう、輝いていようとすることって、とても大切だと思っているんです。経営をやっていて感じるのは、人に与える影響の大きさ。自分のやってきたこと、やることすべてがカルチャーになるということをすごく感じているので、私自身がまずはいつも輝いていたいと思います。 アイドル時代から、まわりに左右されず、飄々と困難を越えていく印象がありますが、挫折を感じたり、スランプに陥ったりすることもあるのでしょうか。
挫折は感じにくいかもしれないです(笑)。ずっと同じことで悩むということもないですし、失敗したなと思ってもすぐに方向転換。「あ、進むのはこっちじゃなかった!こっちだ!」みたいに(笑)。ミスをしても、自分の中で忘れないように留めてはおくけれど、次は絶対同じミスがないようにすればいいと考えるし、切り替えが速いんですよね。だから失敗して自分のことを責めすぎるということもない気がします。経営者として仕事をする中で、心に残っている言葉やアドバイスはありますか?
周りの経営者の方に言われた「意思決定の数だけ経営者として成長できるよ」という言葉が心に残っています。それからは人に任せず、自分自身で意思決定をするようになりました。起業家や経営者の方は、オープンマインドの方が多いんです。自分の事業が今どうなのか、これが良かったとかこれは失敗だったとか、そういうことを惜しげもなくいっぱい教えてくれて、日々勉強になっています。芸能界はさまざまなリスクもあるので、業界的に個人主義というか秘密主義なところもあって。 だから私もすごく内に秘めるタイプだったのですが、 経営者として仕事をするようになってからはオープンマインドを意 識して、考えていることも表に出すようになりました。 スタッフの採用をするときも、 オープンマインドで素直な人と一緒に働きたいなと思うようになり ましたね。 -
SNSやインターネットの特性に合わせ、自分の見せ方を考える。
デジタルが主流になる中で、あえて人と人とが実際に触れ合うショップを作ったのはどのような思いからでしょうか。
「Her lip to」は今までECでの販売をメインで行ってきて、シーズンごとにリアルな場でポップアップショップを行ってきました。ポップアップはブランドを体感してもらえる唯一の場所だったので、毎回かなり力を入れて世界観を作り込んでいて、嬉しいことにそれがすごく好評だったんです。その延長で、ブランドの世界観をより具現化した場所が一つでもあったら、もっとお客様と深く関われるなと思い、今回お店を作りました。内装を決めていく上では、コロナ禍であることも意識し、なかなか海外に行く機会もないからこそ「House of Hermeへ行く」ということが特別な体験になるよう細部までこだわっています。ECで完結する時代に、お客様が本当に貴重な貴重な時間を使って来てくださるので、空間はもちろんオペレーションもかなり練りました。 海外のヴィンテージホテルのフロントがモチーフだという世界観やインテリアも印象的なショップです。すべて小嶋さんご自身で選んでいるそうですが、そういったインスピレーションはどういうところから得ているのでしょうか?
もともとインテリアが大好きなので、インテリアのブックや、海外へ行った時に実際に滞在したホテルを参考にしています。あとはSNSですね。インターネットサーフィンをして何かを調べるのが好きで、無限に深堀りできるというのが特技なんです(笑)。頭の中にその情報がデータベースとしてあるので、みんなでお店の内装を考えたときも、ここにこの色のクッションを置こうと決まったら「この国のこのサイトにあるから、そこを見てみよう」みたいな感じで、パッと出てくるんです。SNSやインターネットを上手に使う秘訣や、心がけていることはありますか?
プラットフォームとそこに生まれているカルチャーの中で、自分だったらどう表現するだろうということは普段から考えています。特にSNSは、それぞれの特性があり文化があるので、それとマッチしないと見てもらえない。人っていろんな人格を持っていると思うのですが、自分のこういう部分はTwitterに合いそうとか、この部分はYouTubeでVlogになりそうとか、自分の見せ方をプラットフォームにどう合わせるかというのはすごく考えていますね。9月には「ROSIER by Her lip to(ロジア バイ ハーリップトゥ)」というランジェリーブランドがデビューしました。次の挑戦としてランジェリーを選んだ理由を教えてください。
お客様から「Her lip to」のお洋服は着ているだけで気分が上がって自信が持てる、周りから褒められて自分を好きになれると言っていただくことが多かったんです。だったら洋服だけではなくて、ファッションのベースの部分であるランジェリーを作ったら、もっとそういう気持ちを高めることができるんじゃないかなと思ったのがきっかけです。それから私自身、クローゼットの引き出しが全部ランジェリーっていうくらい、ランジェリー好きなんです。20代の頃からランジェリーのお仕事をたくさんしてきたこともあって、いつかは自分で作ってみたいと思っていました。でも、実際作るのはすごく大変で、アパレルの延長の感覚では思ったようなものがまったくできなかったんです。何度も失敗を繰り返して、構想から納得のいくものができるまで2、3年かかりました。今まで「Her lip to」のお洋服は着たことがないという女性にも、ぜひ着ていただきたいです。 -
孤独や寂しさは誰しもが抱えているもの。自分のアクション次第で前進できる。
経営者としても個人のプレーヤーとしても忙しい毎日の中で、孤独や寂しさを感じることはありませんか?
そうですね。本当にアイドル時代と同じくらいスケジュールは埋まっていて、忙しい毎日ではあるのですが、私が決断したことの成果や、それに対する反応を見るのが何より好きなんです。たとえばお店が完成して、お客様が来てくださってというように、頭の中で考えていたことが現実になり、それに反応してもらえるっていうことがすごく嬉しい。そういう広がりみたいなものを感じるのが楽しいから続けていられるんだと思います。よく経営者は孤独だと言われますが、もちろん私も孤独です(笑)。何かに夢中になっていたり、忙しくしていたら感じないけれど、考え詰めればめちゃめちゃ孤独。でもそれはアイドル時代もそう思っていて、たくさんのファンの方がいたり仲間はいるけれど、どこかで「そうは言ってもやっぱり他人だから、甘えられないな」とか「ライバルだな」と思っていました。やっていることは違うけれど、以前も今も孤独は孤独。でも人ってそれがベースなんだと思うんです。みんな孤独。じゃあそこをどう乗り越えたり、対処したりしようかというのは本当に自分次第。気を紛らわせるのか、そう思わないようなチームを作るのか、そこは全部自分のアクション次第で前進していくものだと思います。
年齢を重ねていくことは女性にとって、ひとつの大きなテーマであると思うのですが、小嶋さん自身はどのように捉えていらっしゃいますか。
今のところ、すごく楽しみ(笑)。今のキャリアもこれまでの経験を生かして積み上がってきたものだという実感があるので楽しいですが、周りには年齢を重ねてさらに輝く女性の先輩が多いので、私もそうなりたいなと思います。スタイリストの風間ゆみえさんとお仕事をさせていただくことがよくあるのですが、風間さんってすごくチャーミングで、一緒にいるだけで幸せな気持ちになるんです。輝いている先輩方を近くで見ているので、私にとって年齢を重ねることはポジティブなこと。私もそういう影響を下の世代の人たちに与えられたらいいなと思います。小嶋さんが思う素敵な女性ってどんな人ですか?
自分のコントロールが上手な人。年齢を重ねると気持ちだったり、見た目だったりいろんな調子が変わってきますよね。だから、本当の意味で自分のことを知っていて「この時期はこうなるから、こうしよう」というように、バランスをうまくとれている人に憧れます。毎日丁寧に自分と向き合っている人というのかな。最後に、今まさに自分の好きなことを表現したり、仕事にしたいと思っているVOGUE GIRL読者に向けてアドバイスをお願いします。
VOGUE GIRL世代ですでにやりたいことが決まっていること自体、すごいことだなと思います。私は20代前半って何も考えていなかったし、後半になってもまだ自分の進むべき道がわかっていなかったので、夢を持って自分の道を進んでいる方は本当に尊敬します。その上で私からアドバイスさせてもらうなら、自分の夢を叶えるためには一歩考えを進めて、やりたいことをやったときに何が生まれるか、人にどんな影響を与えられるかなど、そこまで考えられると実現まで早いかなと思います。応援しています! -