「GIRL OF THE MONTH」でまとった多彩な花々のように、役柄ごとに異なる表情を魅せ、キャリアを重ねるごとに輝きを増す、女優・伊藤沙莉。9歳で子役としてデビューし、長いキャリアを歩む中で、ときには自分自身の個性について悩むこともあったそう。そんな彼女が見つけた自分らしく生きるコツや信頼する家族についてASK。パワフルなエネルギーとしなやかな視線が捉える、伊藤沙莉の今とこれからの未来について。
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ドレス ¥423,500、アイウェア ¥57,500/ともにGUCCI(グッチ ジャパン) イヤカフ(左耳)¥333,300、ネックレス ¥473,000※5月31日時点での価格/ともにTASAKI(タサキ)
新しいことに挑戦するときは、ワクワクと不安で眠れない。
今回の撮影は、2mを超える一輪の花とさまざまなフラワーモチーフのルックで表現していただきました。これまで多くの役で表現してきた伊藤さんですが、ファッションで表現するというのはいかがでしたか。
ファッション撮影も、こういう世界観の撮影も今まで経験がなかったので、すごく楽しかったです。普段見下ろしているものを見上げる感じが、『不思議の国のアリス』の世界に迷い込んだみたいでした。服はどれも可愛くて好きだったのですが、特に「アナ スイ」のガーリーなデザインが印象的でした。私自身の普段のファッションのテイストとは違うのですが、ロリータファッションに昔から憧れがあるんです。それもあって、今日のようなドーリーなファッションにもトライできたのがすごく楽しかったです。最近では、役者以外にもさらに活躍の幅を広げていますが、新しいことに挑戦するときは、ワクワクと不安、どちらの気持ちが大きいですか。
不安の方が大きいです。実は今日も、あまり経験のないファッション撮影ということもあって、そんなに寝ていないんです(笑)。遠足の前日みたいにワクワクして寝付けないのに加えて、私にモデルとしての役割がつとまるのか不安で、不安で…。昨日は「晩ご飯は健康的にしなきゃ」と思い、フグを食べました(笑)。むくんだらどうしようと思ってお米は食べなかったのですが、お酒は少し飲んでしまいました(笑)。来年はデビュー20周年のアニバーサリーイヤー。9歳で子役としてデビューしてから今まで、このお仕事を続けていられる一番の理由は何でしょうか。
一番の理由と言いつつ、二つ答えていいですか(笑)? 一つは本当にただお芝居が好きだから。辞めるか辞めないか悩んだこともあったのですが、そういう時も結局たどり着くのはお芝居が好き、お芝居がやりたいという気持ちだったんです。そこはきっとこれからも変わることがないんだろうなと思います。もう一つは、逆に「いつ辞めてもいい」とずっと思っているから。そう言うとやる気がないように聞こえてしまうかもしれませんが(笑)、執着しないことがいい意味で気楽に続けられた理由になったと思います。
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ドレス ¥57,200、中に着たタートルトップ ¥19,800、襟(フリルブラウス)¥36,300/すべてG.V.G.V.(ケイスリー オフィス) ブーツ ¥28,600/DR. MARTENS(ドクターマーチン・エアウエア ジャパン) イヤカフ(左耳)¥333,300※5月31日時点での価格/TASAKI(タサキ)
悩んで見つけた役者としての個性は、「普通」でいること。
主演はもちろん、バイプレイヤーとしてもさまざまな作品に参加し、多くの監督からラブコールが絶えない伊藤さん。客観的に見て、ご自身のどんなところが評価されていると思いますか。
「普通」だからだと思います。私は、それがいい方向に転んで、自分の個性になったなと思っているんです。昔は、自分でも学園ドラマにしか出られないと思っていましたし、実際にそう言われて悩んでいた時期がありました。当時、舞台で共演していた子に「私は学校に“なんかいそう”なキャラだから、学園ドラマにしか出られない」と、ポロッと話したら「でも、“なんかいそう“とか“そういう人いるよね“って人は、学校だけじゃなくて、主婦の世界にも、会社にも、結婚詐欺師にも(笑)、どんな世界にもいるんだから、あなたは何にでもなれるんじゃない?」と言われて…。その一言で救われて、「普通」なことが自分の個性なんだと思えるようになったのは、大きかったですね。キャリアを重ねた今、私はそこまで無色というわけでもないと思うようになりました。「この人といえばこれ」というような単色でドン!っという見せ方も素敵だけれど、どんな役でも演じられるような、何色かわからないぐらい複雑な色を持つ存在でいられたらいいなと思います。
周りの方からの言葉を大切にされているんですね。人生のターニングポイントになった、先輩や周りの方からの言葉はありますか。
ドラマ『女王の教室』で共演した天海祐希さんの言葉は特別です。「必ず誰かが見つけてくれるし認めてくれるから。あなたはずっとそのままでいてね。それ以上でも以下でもない。そのままでいて」と…。私が11歳の時にかけてくださった言葉ですが、それからずっと心にあります。自分のセリフがほとんどないような役ばかり演じていると、だんだん「私、何やってるんだろう」という考えが心に差し込んできたりするんです。でも、天海さんの一言があったことで、自分のやっていることにちゃんと意味を見出せてこれたんだと思います。
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ドレス ¥81,400、ヘッドアクセサリー ¥20,900、グローブ ¥23,100/すべてANNA SUI(アナ スイ ジャパン) 中に合わせたトップ ¥45,100(参考価格)/GANNI(ガニー) ネックレス ¥473,000※5月31日時点での価格/TASAKI(タサキ) ブーツ/スタイリスト私物
コンプレックスを味方にするには? 人の意見は否定せずに、受け入れる。
声優や舞台など、さまざまなお仕事に挑戦されていますよね。新しい挑戦に対してはつい尻込みしてしまう人も多いと思うのですが、チャンスを逃さず、自分のものにするコツを教えてください。
あまり偉そうなこと言えないのですが、人の意見を取り入れることです。例えば、私も以前は自分の声がすごく嫌だと思っていたのですが、それが魅力的だと言ってくれる人がいて、そのおかげで声優のお仕事もやってみようと思えました。周りの人が言ってくれる「あなたのそこがいいんだよ」という意見を否定せず、知って、受け入れるということが自分の力になってきた気がします。それから、私は決してナルシストではないですが、すごく自分に興味があるんです(笑)。昨日こう思っていたのに今日はこう思っているなんて、面白いやつだなって、自分で自分のことを思っていて。周りの人が私に対して持った感想や意見に耳を傾けて「へー、そうやって見えているんだ」って受け取ると、自分への見方がまた少し変わってくるんです。そういう考え方ができるようになって、人の意見を取り入れることにも抵抗がなくなりました。5月4日に28歳の誕生日を迎えられた伊藤さん。おめでとうございます! 忙しい毎日だと思うのですが、当日はリフレッシュできましたか。
実家に帰って、家族と過ごしてリフレッシュしました。誕生日当日は、何年ぶりかで実家で過ごすことができたんです。その前に兄が「もう俺の休みはここしかないからやるぞ」と言って(笑)、5月生まれの私とお母さんの合同誕生会を開いてくれたんですが、その時にケーキは食べていなくて…。4日には、ケーキと一緒にお祝いしてもらいました。仕事で悩むことや落ち込むこともありますか。そのときはどのように、気持ちを切り替えていますか。
帰りの車でマネージャーさんにずっと喋り続けます! 「今日のあそこどう思いました? 全然うまく行かなかったんですけど」って(笑)。けど、それに対して「確かにね」みたいに言われると、「そうですかね!? 私だって頑張ったんですけど!」って言い返してしまうこともあります(笑)。思いをあまりセーブせずに話すことで、家に着く時にはスッキリしてます。重たい気持ちを家まで持って帰ることはあまりないですね。
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シャツ(メンズ)¥82,500/MARNI(マルニ ジャパン クライアントサービス) イヤカフ(左耳)¥333,300、ネックレス ¥473,000※5月31日時点での価格/ともにTASAKI(タサキ)
これまで助けられてきた分、誰かにとっての頼れる存在になりたい。
キャリアを重ねてきて、ご自身で成長したなと感じたことはありますか。
最近、作品の中心になる役をいただける機会が増えたのですが、その中で感じているのが意見を求められることが多くなったということ。もともと私は、家族にすら自分の意見を言わないタイプで、以前、事務所の社長に「これからは、ちゃんと自分の意思を示していくことが大切になってくるよ」と言われた時も、あまりピンときていませんでした。でも、最近は衣装合わせ一つでも、すごく意見を聞かれるようになったんです。私は基本的にプロの仕事はプロに任せるべきだと思っていたのですが、意見を聞かれて「あのシーンだったら、こっちはどうですか」と提案した時に、衣装さんやメイクさんが「確かにね」と言ってくださると、すごく嬉しいんですよね。「言ってよかったんだ」と思える機会が増えたことで、自信を持って自分の意見を言えるようになったと思います。これから30代、40代と、どのように年齢を重ねていけたら素敵だなと思いますか。
今まで散々、周りに助けられてきた分、誰かにとって頼れる存在になれたらいいですね。「話を聞いておかなきゃいけない人」じゃなくて「話を聞きたい人」でいられたら最高です。そのためにも、どっしりしていたいなと思います。伊藤さんの世代は、まさにこれからの時代を引っ張ってリードしていく世代。これから社会と、どのように関わっていきたいですか。
引っ張っていくと言っても、多くのことを教えてくださる先輩方がたくさんいらっしゃって、私たちの世代はまだまだ「若造」だと思うんです。でも、だんだん後輩や、年齢が下の方たちも増えてきて、その人たちの意見も面白いということも知っています。だからこそ、上の世代の人たちが作ってきたものを大切にしながら、今あるものに彩りを足していくように、新しい視点や発想を提案していくことが私たちにできることなんじゃないかなと思います。