年齢で“自分らしさ”は変化するものだけど、フラットな感覚は忘れずにいたい——。こちらをふっと和ませる笑顔で語るのは、10月の「GIRL OF THE MONTH」に登場した黒島結菜。15歳で女優デビュー。故郷の沖縄を離れ、のびやかに進化を遂げてきた彼女は、来春のNHK朝ドラのヒロインに抜擢され、今、人生の岐路に。ダイバーシティ東京で、自分の居場所を見失わず、個性を花開かせるには? プレッシャーをするりと交わして躍進する、期待の新進女優が語ってくれた日々とこれから。
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地域に根差すことで見えてきた
東京の、愛すべき一面。今回のファッションストーリーは、平成初期の「東京」にタイムスリップするという内容でした。渋谷や新宿といったカルチャーの中心地で撮影しましたが、黒島さんから見たこの街の魅力とは?
みんなの憧れが詰まった街だと思いますね。私も小学生時代から、ここには何かすごいものがあるんじゃないかと漠然と思っていて「高校を卒業したら絶対に東京に行く」と心に決めていました。上京して7年ほど経ちますが、いまだに住んでいる実感が湧かなくて。「あんなに憧れていた場所に、今私はいるんだ」ってふとした瞬間に感慨深く感じます。
衣装や小道具にも、当時の街のエッセンスが散りばめていましたね。
撮影にも登場したフィルムカメラやエアジョーダンなど、当時ブームになっていたものがまた流行り出していますよね。たまごっちは小学生の頃に育てていたので懐かしくて。手厚くお世話しないせいか、よく「ござるっち」というキャラクターになっていたことを思い出しました(笑)。
東京で生きる楽しみのひとつに、さまざまな価値観やバックグラウンドを持つ人との出会いがあると思うのですが、ひとりの働く女性として、日々どんなことがモチベーションになっていますか。
私の住んでいる街は商店街やスーパーが充実していて、徒歩圏内で身の回りのことが済むんです。それがすごく魅力的で。生活の基盤を整える上で、住む街って大事なんだなと日々感じています。顔なじみの店の方とおしゃべりしたり、近くの公園にリフレッシュしにいったり、お気に入りのコーヒー屋に立ち寄ったり。オフの日のちょっとした楽しみが、私の場合は生きるモチベーションにつながっていて。だから居心地がいい街だと、つい長く住み続けちゃうんです。
反対に離れてみて感じた、故郷の沖縄の魅力は? 東京で暮らしていて何を恋しく感じますか。
やっぱり美しい海かな。東京近郊にもビーチはあるけれど、地元とはどこか違うんですよね。あとは……ゆったりした時間の流れ。沖縄にいると遅い時間であっても「今、22時か」という感じで何とも思わないんですが、東京だと「もうすこしで0時になる!」って、妙に時間を意識してしまうんです。
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常にフラットな自分でありたい。
自己表現で育まれる、豊かな精神性。黒島さんは写真が趣味で、インスタグラムにも作品をアップされています。何がきっかけでカメラに興味を持つようになったのでしょうか。
高校生の頃に、「ロモ」のフィルムカメラをいただいたのがきっかけです。ちょうどその時期、進学に悩んでいて。写真学科というものがあると聞いたので、じゃあ受けてみようと流れで勉強を始めました。その頃からよく撮っていたのは、海外のローカルな街の景色や、現地の人々。見たことない光景を、カメラに収めるのがとにかく楽しくて。最近はコロナ渦で家にいることが多いので、写真を撮る機会も減っているんですが、その代わりに飼い犬をよく撮っていますね。
好きな写真家はいますか?
お仕事で一緒になったフォトグラファーさんに、ブラジル人写真家セバスチャン・サルガドの作品集をいただいたんです。大自然やアフリカの民族、クジラやアザラシなど、おそらく地球をテーマに撮った作品だと思うんですけど、あれ見ちゃうと、もう誰も勝てないというか(笑)。その人の写真は本当にすごいと思いますね。説得力があって一気に見れないんです、疲れちゃうから。
サルガドはドキュメンタリー写真の巨匠ですよね。骨太な名前が挙がって驚きました。ちなみにプライベートではどんなカメラを愛用しているのでしょうか。
カメラはニコンF3というフィルムカメラを軸に、例えば今日は持ち運びがしやすいほうがいいとか、あまりがっつり撮らない日は、リコーのGR1vやコンタックスT2をよく使いますね。反対にもっとちゃんと撮りたいときは、マキナ67という中判のフィルムカメラを持ち出してきたり。目的や気分によって変えています。
多様性が問われる中、自分らしさについて考える機会も多いと思います。写真を通しての表現が、アイデンティティを形成する上で役立ったなど、感じる部分はありますか?
そうですね。ファインダーを覗くときのように、常にフラットな精神状態でいたいなと思っています。とはいえ、自分らしさってその時々で変化するような気もしていて。私の場合でいえば、10代のときはすごく自由(笑)。感情の起伏も激しく、コントロールが大変だった時期もあったんですけど、20歳をすぎると徐々に落ち着いてきて。周りのことが見えるようになり、好きなものもわかってきたというか。考えがシンプルに整理されてきた感じはあります。
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女優という職業は「信用」がすべて。
頼られる存在を目指し、精進するのみ。来春から始まるNHK朝ドラ「ちむどんどん」では、沖縄からシェフを目指して上京するヒロイン、比嘉暢子を演じられます。主役が決まったとき、どんな気持ちでしたか?
最初はあまり実感が湧かなかったんですが、情報が公開されるにつれ、こんなに長い期間1つの役を通して、同じメンバーと過ごすことってないので、この時間を大事したいなと思うようになりました。数日後にクランクインなんですが、まったくプレッシャーは感じていなくて(笑)。早くみんなと集まってお芝居したい、今はそれだけですね。
タイトルの「ちむどんどん」は、沖縄の方言で“胸の高鳴り”を表すと聞きました。最近お仕事現場で、そんな胸の高鳴りを感じる出来事はありましたか?
先日、脚本の読み合わせを行ったのですが、読んでいるうちに「うわあ、これはすごく面白い作品になる!」って自分のなかで期待値がすごく上がって。しかも周りも同じように感じているような空気になったんです。そういう一体感が生まれることってなかなかないので、驚いたのと同時に気持ちが昂りましたね。
黒島さんは10代からドラマや映画に出演、実力派として着実にステップアップされてきた印象があるのですが、お仕事で壁にぶつかったとき、どんなふうに解決してきましたか? 壁を乗り越えるコツってあるのでしょうか。
壁にぶつかったら……とりあえず1回休憩します(笑)。だめだーって落ち込んで、あきらめるんです。あきらめるってネガティブに捉えられがちだけど、私はそうは思ってなくて。あきらめるという言葉には、「物事を明らかにして受け入れる」というダブルミーニングがあるんです。それを教えてもらったときに「なるほど!」とすごく腑に落ちて。それまでは、あきらめが早い自分のことをネガティブに思ってきたんですが、それが決して悪いことじゃないんだって、少し開き直れました。
2022年は忘れられない1年となりそうですが、朝ドラでの経験を糧に、女優として、人としてどんなふうに成長してきたいですか?
女優の高峰秀子さんが好きでよくエッセイをよく読むのですが、そのなかに「この仕事は信用が大事」っていう記述があって。「あぁ、確かに」とすごく納得しちゃったんです。この人に演じてもらうからこの役は大丈夫、この人が出ているからこの作品は間違いない、私もそういうふうに思ってもらえるように努力していきたいなと。それまではどういう女優になりたいのか、具体的な目標がなかったんですが、高峰さんの言葉によって1つ明確なものができた。人としても女優としても、信頼してもらえる人になりたいと、そう強く思います。