テレビに映画、舞台と軽やかにジャンルを行き来するオールラウンダー、小池栄子。機転がきいてユーモアがあり、成熟した大人の色香もある。そんなバランス力に長けた彼女の魅力を紐解くべく、「GIRL OF THE MONTH」の撮影終わりに副編集長・荒井現がインタビューを敢行。実は駆け出しだった15年前に知り合い、旧知の仲だというふたり。若いころの苦い経験、パートナーとの関係、年齢を重ねた今思うこと。溢れ出る彼女の本音から、素敵な年の重ね方について、今一度考えてみよう。
-
物事すべてに白黒つけられる訳じゃない。
“曖昧さ”も愛せる、柔軟な女性でいたい。全力で今のキャリアを築いてきた栄子ちゃんと同じ目線に立つつもりはないんですが、知り合ってからずっとそれぞれの道で頑張ってきて、今、こうやって一緒にお仕事できること嬉しいです。
本当に!時間が経つのってあっという間だなあぁ(笑)。
今回は「洗練された黒の着こなし」をテーマに、黒に多彩な色を掛け合わせる、高度なスタイルに挑戦してもらいましたが、栄子ちゃんのなかで「黒」ってどんなイメージですか?
「黒=芯が強い」っていう印象かな。私の場合は着こなしがわからないから、とりあえず無難に黒い服を着ている部分が大きかったんだけど、今回の撮影で同じ黒でもアイテムが変わるだけで、こんなにお洒落に見えるのかと驚きました。黒ってラクをしているわけではなく、高度な着こなしだったんだなって。
日本ではよく「白黒つける」という表現が使われますが、栄子ちゃんは物事をはっきりさせておきたいほうですか?
昔は白黒つけたがって、自分にも他人にも厳しいところがありました。でも年齢を重ね、いろんな人との出会うなかで「みんなそれぞれ事情を抱えているんだ」と感じることが増え、「グレーを受け入れられる人でありたい」と思えるようになったかな。
グレーを愛せるようになったのは、自分のなかに「優しさ」が芽生えてきたからかもしれないですね。
20代のころは一丁前に「この役はこんなセリフ言わないと思う!」とか、型にはめて人物像を作りたがっていたけど、いろんな役を演じていくうちに、人間ってもっと曖昧さのなかで生きていて、自分の中にも判断がつかない部分っていっぱいあると気づいて。「この人はこういうタイプ」と決めつけるより、裏切ったり裏切られたりするほうが役作りしていても楽しいし、観ている人もワクワクすると思う。グレーってマイナスに捉えられがちだけど、ある意味その人の魅力や個性だなって。
ちなみに10代や20代の頃は、どんな女性を「素敵だな」と思っていましたか?
昔はサバサバとした女性に憧れていたけれど、いまは心の許容量が広い“母的女性”に惹かれますね。そう思うとバラエティが主戦場だった20代は、性格がキツかったんだなって。噛みつけばいいと思っている節があったので(笑)。
-
舞台で味わった、苦い経験が成長の糧に。
大切なのは「自分の価値」を知ること。小池さんにはカテゴライズできない唯一無二の個性があって。それが若い世代にも支持されていると思いますが、憧れの存在になった自分をどう思いますか? 実感はありますか?
現場でも年下の方が圧倒的に増えて、そういった言葉をいただく機会もあるけれど、あまり実感はないかな。もちろん私も駆け出しのころ、いわゆるヒロインやTHE スターへの憧れはあったけど、この世界って「王道で行くタイプ」と「脇でいくタイプ」と、役割があって。なかなか思うようにいかず、私はいろいろ経験を積んでいった感じなので。
順調そうに見えたとしても、いろんな葛藤を経て今があるということですね。栄子ちゃんは壁にぶち当たったとき、どう乗り越えてきましたか?
どんな職種の人でも落ち込むことってあると思う。でも引っ張れられずに頑張ってこれたのは、月並みだけど家族や友人たちのおかげです。味方がいることは、私にとって相当なパワーになっていて。特に芸能の世界は、プライベートなことも評価に繋がって、嫌なこと言われたり誤解されたりするけど、「私をわかってくれている人がいる」と思えると乗り越えられるんですよね。壁にぶち当たったときって孤立しがちだけど、もっと広い視野で見ると、傍らには家族や友人たちがずっといるわけで。その目線は忘れないようにしたいですね。
キャリアの転機になった作品や、「女優として生きていける!」という実感が湧いた作品は?
いくつかターニングポイントはあるんだけど、一番はやっぱり舞台。みんなウェルカムな雰囲気で迎えてくれるんだけど、叩き上げで育った彼らとタレント畑で育った私とでは、そもそもの演技の基礎が違うので、なかなか仲間に入れなくて。ずっとジレンマを抱えていたんだけど、そこから経験を積んで2016年に舞台で賞をいただいたとき、かなわないと思っていた方々が「おめでとう」と言ってくれて。「あ、ようやく演劇人のスタートに立てたな」と嬉しかったですね。
舞台って常に試されるというか、フレッシュな感覚が味わえるんですね。
テレビとか映画とか、直にお客さんの反応を感じられない場所だと、自分が本当に求められているのか、いまいちわからなくて。忙しければ忙しいほど「独りよがりなんじゃないか」って不安な気持ちに堕ちていくんだけど、舞台はお客さんがいるので心強いんですよね。過去に「あなたが軸だとチケットが売れない」ってはっきり言われたこともありましたけど、そうやって現実を知っていくことはすごく正しいことだと思うから、一生続けていきたいし、たくさん集客できる演劇人になるのが夢かな。
-
進んで恥をかき、格好つけるのはやめる。
媚びずに自然体でいたら、人生が好転し始めた。栄子ちゃんは後輩からも慕われ、重鎮たちかも好かれている印象がありますが、一緒に仕事をしたりコミュニケーションをとる上で大切にしていることってありますか?
必要以上に媚びないようには気をつけているかな。自分が後輩にされるのも嫌だし、ちゃんと意見を言える間柄になりたいと思っているから、最初から構えないで、聞きたいことは聞いて、素直に甘えます。昔は変なプライドを掲げて格好つけてた時期もあったけど、そんなの見透かされてるんだって気づいたときに、すごく恥ずかしくて(笑)。まっさらな状態でぶつかっていこうと、新しい仕事に挑むときは毎回思っていますね。
自然体で相手にぶつかるって、意外と一番難しいですよね。それは舞台の現場で学んだことですか?
うん。やっぱり舞台の稽古って、みんなの前で「違う、ダメ!」っていう繰り返しだから。格好なんかつけていられない現場になっていくので、その経験が活きているのかな。たぶんテレビだけやってたら、そこまでさらけだせる人間になっていないと思う。そう考えると、意外とダメ出しされるのが好きなのかも。悔しさは起爆剤にもなるし、飴と鞭の使い方が上手な演出家には、すぐコロッといっちゃう(笑)。
舞台でダメ出しされて、鎧を剥がされて。それで「生きやすくなった」って実感を得たのは、何歳くらいのころですか?
周りに何でもこなせると思われて、それに無理をして「120点でお返ししますよ」と応えていたのが20代。内心はすごくビビッているのに、できないって言いたくない時期があったんですけど、30代に入ってからは自ら進んで恥をかいたほうが、のちのち楽ということに気づいて。いまは「本当は私、怖いんです!」と先に言って、逆マウントをとっちゃう(笑)。
媚びない生き方って、ときに敵をつくる側面もあるから、しんどくなる瞬間もあるのでは?
嫌われたくなくて、それこそ昔は八方美人に振る舞っていた時期もあったけど、変わったのはパートナーとの出会いが大きいかな。彼は口が悪くて態度も大きい、いわゆる敵を作りやすいタイプ。でも愛する家族や友人を守るためなら自分が嫌われても構わない、っていう私にはない考えを持っていて。思っていることを何も言えずに適度な関係が続いていくのなら、ひとりの人と深く向き合いとことんやりあった方がいい、っていうのは彼から学びました。もちろん最低限相手をリスペクトすることは大事だけど、こっちが心を開かなきゃ、相手だって心を開いてくれないから。
-
流れに身を任せていくのが私のスタイル。
苦手なことはフワッとかわし、執着しない。栄子ちゃんは本当に昔から変わらなくて。素敵に年を重ねているなと思ったんですが、魅力的な女性でいるために意識していることってありますか?
以前は空き時間にドラマばかり観ていたけど、最近はフィットネス動画を観て身体を動かしたり、犬の散歩で必然的にウォーキングしたりしてる。あとは毎日必ず湯船に浸かるとか、白米は抜かず1日1食は食べるとか、そんな感じかな。でも根詰めてやるとダメな性格ってわかってるから、次の日が休みならお酒もたくさん飲むし、適度に自分を甘やかしながら続けています。
バラエティに映画、舞台と、いろんな作品で楽しませてもらっているけど、「小池栄子」の強みを自分なりに分析すると?
「何か面白いことをやってくれそう」じゃないかな(笑)。そういう人を目指していたし、クレジットに「小池栄子」の名前があるとちょっと観てみたい、って思われる演者になりたいと思ってきたので。だからバラエティでもドラマでも、新しい作品のオファーをいただくと、自分で小さなプレッシャーをかけるんです。それを乗り越えていくのが、試練といえば試練かな。
今回15年ぶりに再会して、相変わらず頑張っているなあと感じて嬉しく思いました。これからはどんな風に人生をデザインしていきたいですか?
私は自分で何かを決めるのが苦手で。「こうなりたい!」というより、周りが繋いでくれたご縁に乗っかって、そこで頑張るスタイルをとってきたので、そのやり方は変えず、流されるままにやっていきたい。「これからは自己プロデュース力が大事になる」と周りから言われ、二刀流の芸能人が増えてて心が折れるんだけど、そんなの別によくない?っていつも思うの(笑)。演劇の世界には創作意欲が強い人たちが多いし、それそれが自分の得意な分野を伸ばしていけばいいんじゃないかって。
必要とされる場所で力を発揮していれば、人生はきれいに流れていくと。
そう。流れに身を任せていると不得意な仕事もくるだろうけど、それを「やります!」ってチャレンジするほうが楽しい。昔からよく要領がいいとか言われるけど、苦手なことを隠すのが上手いだけで、ヘラヘラして過ごしているからバレずに済んでいるんですよ。ネガティブなことはフワッとかわすし、次の日には忘れて執着しない。とはいえ「これぐらいでいいだろう」って、あぐらはかかないように、仕事は守りに入らず、激流に揉まれながら一喜一憂していたいです。