テレビや雑誌で活躍し、さらにデザイナーとしても才能を発揮するガールズ・クリエイター。第4回目は「PUNYUS(プニュズ)」のプロデューサーを務める渡辺直美が登場! 2014年春夏シーズンにスタートして以来、おしゃれに悩めるぽっちゃり女子の救世主となったコレクションは、今や海外メディアやセレブからも”クール”と賞賛される存在に。多忙な日々の中でも本気で向き合うデザインへのこだわりや、ブランドへの愛情、ユニークなクリエイションについて聞きました。
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PUNYUSのデザイン会議が行われる、WEGOのミーティングルーム。
■PUNYUSってどんなブランド?
コンセプトはあえて設けていません。それがコンセプトかな。コンサバ系もいるし、ヒップホップ好きもいるし、ストリート系いれば、ロックもいる。色んなタイプのぽっちゃりの人がいる中、どのジャンルの人でも楽しめるお店にしたかったので、ジャンルレスで進めることをまず決めました。1番最初のコレクションのときは、90年代にハマっていてヒップホップが頭の中を占めていたけど、ロックや原宿系もあって、ちょっと大人なサファリっぽい服も出したり。今ではより世界観が広がり、さらに色々なテイストの服を作っています。
ブランドを始める前からファッションは好きだったけど「私が着れる服なんてないだろ」って少し諦めていたし、あと芸能人のブランドって値段もなかなか頻繁に買えるものではなかったり。ブランドを始めるなら、年齢やジャンルでターゲットを絞らず、興味を持ってくれた人みんな大歓迎ですっていう間口の広い存在でいたかった。PUNYUSはWEGOから立ち上がっているブランドですが、安くてトレンドもあって古着もある、そんな誰もが1度は通るWEGOのようなお店を展開している会社と一緒にやらせてもらえるのはぴったりでした。
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2018年春夏シーズンのアイテムは、去年主演でドラマをやっていた最中に寝る間を惜しんで作ったもの。
■プロデューサーって具体的にどんなことをするの?
PUNYUSでは年に360型ほどの服や小物を作っています。私が欲しいものを軸にそこからどんどん膨らませてデザインをし、それを形にするためチームのみんなで月2-3回ペースで打ち合わせをしながら服を作りあげ、上がってきたサンプルの1つ1つを私がチェックしています。
それ以外にも、ブランドの打ち出し方や、ビジュアル、店舗のイメージからインスタグラムのチェックまで、ブランドに関することはすべて携わっています。そうなんです、世間がイメージするよりも、めちゃくちゃ深く関わっているんです(笑)。最近意識しているのは、目標を掲げるときには明確に数字を出すこと。以前PUNYUSのインスタが乗っ取られってしまったことがありました。ゼロから再スタートしたけれど、思うようにフォロワーに戻ってきてもらえず、スタッフの気持ちも停滞気味。その様子を見て「フォロワー10万人目指しましょう」と期限を設けました。ちょっと高めのハードルだったけれど、その間は私が先頭に立ってビジュアル面・中身について強化。結果、目標までは一歩届かなかってけれど、みんなの姿勢はいい感じ。数字を共有すると、それに向かってするべきことを具体的に考えて前向きに行動するようになるので、そうやってスタッフの精神的な部分もプロデュースしています(笑)。
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「やっぱり作っているときは楽しい!」デザインは、チームの意見も聞きながら進みます。
■リピーター続出!その絶妙なサイズ感の秘訣は?
痩せてる子が着れるフリーサイズから1番大きな6Lサイズへと、比例して大きくするのではなく、サイズごとにパターンを変えています。身体が大きくても肩幅はあまり変わらないけど、逆にウエスト回りは大きくする必要がある。サイズによって、きつい部分や張る部分は異なるから、単純にピッチだけのばしてもダメ。デニムも、サイズごとに股上の長さを変えています。大きい服で覆い隠すのではなく、女性らしいところは強調して自信をもってほしい。でもぽっちゃりさんがコンプレックスに思う部分は、徹底的に改善していくようにしています。
どの仕事でも同じだと思うけれど、一緒に働いている人に自分の思っていることを伝えるって難しい。チームのみんなは太ってないから、ぽっちゃりさんの悩みやニーズを理解してもらうって大変です。「こんなニットがいいと思う」ってデッサンで伝えても、丈がワンピースくらいのダボダボにサンプルが上がってきたり……初期の頃はよく苦労しました。何を作るかを考えるよりも、作ったものをみんなに気持ちよく着てもらうため改善していくことに時間と労力がかかったりします。ウエブで買ってくださるお客さんも多いので、届いたときにちゃんと喜んでもらえるよう、大きいサイズの形は特に気をつけています。とはいえ私も服作りは素人。チームのみんなから教えてもらうこともあれば、言い争ったり、ときには殴り合いのケンカも(笑)。いいものを作るため、みんなで奮闘しています。
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季節ごとに運ぶ食べ物が変わる”いただきマウス”は本人の考案・イラストによるもの。
■こだわりのデザインルールってある?
女性らしさを大事にしています。すでに他の大きいサイズのブランドでやっているような男受け、女受けを追いかけるのではなく違うベクトルで進めたくて、中でもポップなストリートっぽさは表現したかった。今までストリート好きのぽっちゃりの人はメンズを無理矢理着ることが多くて。でも、それだとボーイッシュになっちゃう。例えば、Tシャツも袖の長さ次第で、男っぽくなってしまう。納得のいくTシャツの形ができるまでに、何度も着てチェックしたりして細かい修正を繰り返し3年かかりました。ぱっと見男の子っぽくてポップなんだけど、着たときに女らしさが出るよう、細部へのこだわりは大切にしています。
ロンパースの切り替えしも、大体胸の下くらいにあると1番女の子らしさが出せる。これがもっと下だと、寸胴の短足に見えてしまうんです。きつくない程度に、太っている人の身体をどう縦長にみせるか。丈もぽっちゃりした人がかわいく見えるよう、ミリ単位で調整しています。
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〈上〉今季は4人のイラストレーター、後藤徹也、菱沼彩子、NONCHELEEE、山崎若菜とコラボ。〈下〉丁寧にファイルされたアーカイブのイラスト。
■ユニークなイラストのアイテムってどうやって生まれるの?
私の好きなイラストレーターさんにお願いして描き下ろしてもらったものと、自分で描くものの2種類があります。絵はもともと好きで、自分で調べて勝手に個展に行ったりして、気に入ったものはその場で購入することも。服にしやすい絵とそうでないものがあるので、そういった視点でも見ています。そこから、プリントにするか、刺しゅうにするか、はたまた素材を変えるか、って考えていきます。
自分で描くものは、パソコンが使えないので、いつも手描き。そこから色をつけて形もキレイにしてもらっています。ブランドのキャラクターとなっている「いただきマウス」も、自分で描いたもの。実は超ふざけて作ったから、まさかこんなに人気が出ると思っていませんでした。でもそういうのってすごく多い。あえて遊びで作ったものが、色々な服を着過ぎてもう刺激がないっていう人にウケるっていうことがよくあります。フードシリーズもすぐ売り切れになったり。ファンの方は、本当にちょっと変わった人たち(笑)。もちろん自分ではかわいいと思って作ってるんですけど「これ派手すぎたかな?」と思うものが、どんどん売れたりする。きっと想像の先を行ってるんですね。
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デザインのベースは、自分が欲しいと思うもの。同じ想像を膨らませてもらうため、絵を描いたりして一生懸命伝えます。
■クリエイションのスタートは?
シーズン頭の打ち合わせで「こうゆうテイストのものを作りたいと思うんだ」って5個くらい考えてから臨みます。シフォンのスカートがかわいいからそれを使ってワンピース。丈はこのくらいが、次は来ると思う。デニムは、ダメージ感でなくて丈感を大事にしたい、とか。欲しい小物や、バッグにこういうのを合わせたらかわいいかな、みたいに話しながら進めます。
海外で得た刺激を、デザインにフィードバックすることもあります。絵とか建物の色の組み合わせを見て面白い発見があったりするから、それをデザインに活かしたり。いずれはPUNYUSのチームで無駄に海外旅行にでも行って、街を散策がてらリサーチしたいですね。イタリアかLA、NY、あとはプーケットとか。色にはとてもこだわっていて、でも自分1人では限界があるので、そういうときは「この組み合わせどう思う?」って相談したりします。
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こだわりのルックブック。自らモデルも務め、話題のイットガールも起用。数シーズン前からはアート・ディレクター、吉田ユニと組み、その世界観も毎回話題に。
■忙しくても続ける、そのモチベーションは?
色んな仕事をしている中で、本当に自分がやりたいことや好きなものを形にできているのがPUNYUS。芸人でも、自分でコントや単独ライブをするときって、やりたいこともやりつつ、お客さんをいかに楽しませるかって考える。バラエティはチーム制なので自分だけが面白くてもダメ。抑えることもあるし、ドラマや映画は監督の思いにどうやって必死についていって演技するかって考えます。
でもPUNYUSは、自分のやりたいことや伝えたいことをダイレクトに伝えられる場所であって、同時に芸人をやっているからこそできている仕事。というのも、私がこの服を作ってるからみんな理解してくれるけど、別のブランドで同じものを出しても「ん?あのネズミ何?」ってなると思う。スーパーの野菜みたく「私が作っています」って顔が見えると安心するのと一緒で、芸人という私の人となりが分かって見てもらえた方が、表現の意図を汲んでもらいやすいし、それでみんなに支えてもらえているんだと思います。
去年は、主演ドラマや映画に出たり、海外での仕事も増えたり、新しいことに挑戦することが多かった。芸人としても『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで』の七変化に出たり『人志松本のすべらない話』に出たりと、充実していました。でも、芸人の仕事を疎かにしてるって思う人も、中にはいる。そんな中で、七変化で歴代2位という結果が出せたとき「よかった、これでまた好きなことできる」ってほっと一安心。芸人業ももちろん手を抜かず、これからもファッションを続けていきたいです。
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ショールームには新作のサンプルがズラリ。難易度の高いアイテムには、スタイリングで提案することも。
■これからの目標を教えて。
今は、海外の1店舗目として、台湾にお店をオープンできないか進めている最中。あと日本のみんなに、もっと買いやすいような感じのシステムも強化していきたいし、海外からもウエブから購入できるように、ネットはもっと強化してこうという話をしています。
おかげさまで、PUNYUSは順調。でも個人的には売り上げがどうっていうより、買ってくれる人がたくさんいるってことが嬉しい。いい作品ができてるのかな、と思って。だからこれからもいい作品を残していきたいです。それで、100年後とかにPUNYUSの服が古着屋さんにに並んでいたら嬉しいですね。私の孫の代までPUNYUSが続いてて、孫が後継いでたりしたらウケますよね!
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