雑誌やテレビで華々しいキャリアを積みながらも、クリエイティブな世界に飛び出し、その才能を開花させたガールズ・クリエイターたち。独自の世界観を繰り広げ、本気で服作りに向き合う彼女たちのガールズパワーをシリーズでお届け。記念すべき第1回は、「irojikake(イロジカケ)」を手がける紗羅マリーが登場!
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自宅の一室にあるアトリエにて。デスク周りには、創作意欲をかき立てるガジェットがずらり。
“エロ”と“ヘンタイ”が詰まったフェティッシュな世界観。
13歳でモデルとしてデビューして以来、常に第一線で活躍しながら、バンド「LEARNERS(ラーナーズ)」のフロントウーマンを務め、ミュージカル『RENT』にも出演。この春には映画『ニワトリ★スター』でスクリーンデビューも果たす紗羅マリー。2シーズン目を迎える「irojikake(イロジカケ)」は、学生のときからブレずに好きな“エロ”と“ヘンタイ”をベースに、得意のイラストや彼女ならではのロックなスピリットを注入にしたデザインが魅力。そんな紗羅マリーらしさあふれる、フェティッシュ・ワールドとは?
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「irojikake」18年春夏コレクション。自分が”リアル”に欲しいアイテムを厳選してデザイン。
「irojikake」ってどんなブランド?
エロなブランド(笑)。とはいえ、下品なセクシーさでなくて、ちょっとスパイスや遊び心を効かせています。「irojikake」の裏側には、女スパイが任務を遂行していく、というストーリーがあります。女スパイからなる「irojikake」というチームがいて、その社長が私。そこに所属している女の子たちがキャンディと呼ばれていて、キャンディの普段着という設定でデザインしています。キャンディには今全部で6人いて、1人はナイフの達人。その子は血の匂いで血液型を当てることができて、人から恨みを買ってターゲットになりやすいのは何型の人間なのか、とこっそり統計を取っている追求心型の子。もう1人は、乳がんを患って片方のおっぱいを取ってしまったのだけれど、そこに銃を隠しています。彼女はピンナップガールの格好が好きで、まさに色仕掛けが得意。それから、カメラマンの女の子もいます。ちょっとオタクっぽいんだけど、実はカメラが武器になってる。今後、そういった彼女たちのキャラクターも少しづつ表現していきたい。そして「irojikake」を買ってくれる方がチームの一員になってくれたらいいな、と思っています。
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デザインでは、手描きとPhotoshopを使い分け。
ブランドを始めたきっかけは?
欲しいものがたくさんあるけれど、それって買うより作った方が楽しいんじゃないかな?っていう気持ちと、それに共感してくれる人が買ってくれたらいいな、という思いから始めました。それまでも他のブランドさんとのコラボで商品を出すことがあって、デザインを考えたり工程に携わっても、在庫のリスクなどを抱えるのは私ではなくブランドさん。作っている間は楽しいけれど、その後の責任も自分で持って取り組んだ方がいいのでは?という思いが強くなっていったこともあります。2017年秋冬シーズンで本格的にデビューしましたが、実はそれより前から数ヶ月に1度、1型だけ作って、ホームページにあげていたんです。私の名前を出していたわけではなかったのですがどれも即完売してくれていたので、これならブランドとしてやっていけるかも、という自信になりました。
実はブランドを立ち上げる前に、どうやって服が作られているのかを知りたいという好奇心で、パターンの学校に1年くらい通ってました。そのおかげで、パタンナーさんへの指示出しもやりやすいし、トワールやタックのちょっとした直しも自分でささっとできる。今は時間的に難しいけど、ゆくゆくはパターン作りにも挑戦していきたいです。
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インスピレーションの源となるヴィンテージのフォトブック。
クリエイションを刺激するものは?
普段からNetflixで昔の映画を見たり、それから古本屋にも足繁く通っています。18年春夏コレクションのときに見ていた映画は『愛のコリーダ』、『17歳』、『パルプ・フィクション』。ただ昔のものをそのまま作っても意味がないから、今っぽい要素を取り入れたり素材を変えることで、今の子がおしゃれに着れるようにアップデートしています。私の場合、美術館に行ったりライブを見に行くことが、クリエイションにもいい影響を与えてくれる。お気に入りのバンドは「キノコホテル」、「ザ50回転ズ」、「ザ・ニートビーツ」、「リンダ&マーヤ」、それから「チャラン・ポ・ランタン」も!すべて、日本のバンドです。
コレクションは、自分のワードローブにそのシーズンに足したいものを1〜2ラックにまとまるよう厳選して作っています。他のブランドの服も着るけれど、その中の1つとして自分の作った服を着れるのはとても幸せ。スタイリングが楽しくなればいいな、という思いがあるので、色使いにはこだわっています。ベーシックな色って他のブランドにもいっぱいあるから、ちょっとチャレンジしてみよっかな、っていうときに「irojikake」を手に取ってもらえたら嬉しいです。
旦那さんも「Son of the Cheese」というブランドをやっていますが、インスピレーションやデザインに関すること、生地屋巡りも、お互いノータッチ。でも、展示会用のプリントアウトの仕方やいい工場を教えてもらったり、そういうことは相談にのってもらったりします。
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学生の頃から収集していたという“ヘンタイ”グッズの数々。“イロジカケ”キーホルダーは、キャンディがターゲットを連れ込むラブホテルをイメージして作ったもの。
ブランドをやっていて楽しいときって?
楽しいのは、やっぱり作っているときとデザインを考えているとき。それから1番嬉しいのは、サンプルが上がってきて、それをチェックしているとき。テンション上がって、ずっと飛び上がっています。デザインから、ルックブックの撮影を組んだり、展示会を開いたり、それから経営サイドのことまで「irojikake」の業務をすべて1人でやってる中で、1番大変なのは検品。それでも、人任せにして万一卸さんからB品の報告を受けてしまったときに、その人に対して怒るのもいやだし責任転嫁させる環境は欲しくないから、大変だけど今はまだ1人でやってたい。
1ラックくらいであればなんとか1人で全部見れるから、今後も型数を増やすことはあまり考えていません。でも、1人でも多くの人に知ってもらいたいから、ポップアップもやってみたいし、地方にも直接行って、面白い卸さんとお取り組みができたらいいな、と思っています。今シーズンからは、「オープニングセレモニー」でもお取り扱いしてもらえることになったんですよ。それから、すごくお金がかかるからすぐには無理だけど、いつかはショーをやってみたいです。
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デザインで重視するのは、自分が実際に着たいかどうか。
モデル/シンガーとしてのキャリアが与えたものづくりへの影響。
モデルという職業柄、色んな服を着てきたことで縫製や形の良し悪しが分かるようになった状態でブランド始められたのは、すごくいいこと。バンドをやっていたことで、『RENT』も決まったりとか、キャリアの全部が意味のあったこと。すべて繋がっています。ブランドを始めてさらに忙しくなったけれど、飽きないし、これからも1つに絞りたくないですね。それから、モデルをやってきたことで色んな人たちと出会えたことも大きな財産。ルックブックのモデルをしてくれた秋元梢や、カメラマンやヘア&メイクも協力してくれたり、卸業の方を紹介してくれたり。みんなが応援してくれるから、そんないい環境そろってたら「やるしかない!」って感じです。
モデルでもバンドでも「irojikake」でも、やりたいことしかやってないので、世界観はどれも近いし、オーバーラップしている部分があります。「irojikake」で、チェッカーフラッグのパンツを作ったとき、バンドのファンの人たちが買って、ライブに来てくれたときは感動でした。衣装に使うこともあるし、「ツナギ作ったから、これ移動用ね」なんてバンドメンバーに渡すことも。私がママなので、可動域が限られる服はNG。「irojikake」の服はすべて楽チンなので、メンバーの移動着としても重宝しています(笑)。
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毎シーズン人気なのが、自身で描いたイラスト入りのアイテム。わざと少しズラして色を入れたというこだわりのプリントも必見。
未来のクリエイター・ガールへのアドバイス。
私の場合、13歳からモデルをやっていたので、周りにも同じ環境にいる人たちが多くまったく新たな環境に飛び込むっていうリスクはなかったけれど、そうではない人たちは、クリエイティブな人が集ってる飲み屋や、クラブやイベントだったりに行くのがいいと思います。昔、お母さんに「好きな男性のタイプがいるんだったら、そのタイプの人がいそうな場所に行かなきゃ出会えないでしょ」って言われたことがあって。「おとなしい人が好きだったら図書館で、食べ物が好きな人がいいんだったらカフェやレストランで出会えばいいし、遊ぶのが好きだったらクラブに行きなさい。自分のタイプの人がいそうな場所に行かなきゃだめよ」っていうのと、同じ感覚。自分がやりたい職種があったら、その職種が集ってる人たちのところに行かないと、何も扉が開かない。そして、そういう人たちと知り合ったら、その現実についてもあらかじめ教えてもらうのがいいと思う。クリエイティブな仕事って、輝いてる部分は他のものよりもとっても輝いてるけれど、でもそれ以上に努力してる部分もみんなあるから、そういうところを知れる場所に行ったりして、自分で地に足つけて地道にコネクションを広げていったらいいんじゃないかな。