憧れのファッションやビューティ業界で活躍している女性達は、どんなプロセスを経て夢を形にしてきたのだろう? その足がかりを掴むべく、第一線で活躍している先輩方にこれまでのキャリアをインタビュー。Vol.11はビューティ業界の枠を超え、世界的に活躍しているネイルアーティストHana4さんにお話を伺いました。
父の看病のために休職……。Hana4さんがネイルアーティストを目指した理由
まるで絵画のように繊細な筆致と美しく独創的なデザインで、さまざまな方面から注目を集めているネイルアーティストのHana4さん。ネイルをアートとして捉え、日本だけでなく世界中を舞台に活躍しているHana4さんだが、学生の頃からネイリストの道を目指していたのだろうか。
「それが全然違うんです。もともとはアーティストになりたかったので、大学は美術系の学部にいました。子供の頃から絵を描くことが好きで、本当は就職しないでそのまま大学院に進みたかったくらい。けれどなかなかそうもいかず、大学の頃にインターンをやっていた縁もあって、卒業後はアパレルブランドに就職してプレスをしていました。ファッションが好きだったということもあり、アパレルの仕事はとても楽しくて、毎日充実していましたね。けれど、父が病気になってしまって、その看病のため1年半ほど休職をしたんです。その後、父が亡くなったのを機に退職をし、ネイルの学校に通い始めました。同時にファッション雑誌の編集部で編集長のアシスタントも始めました。仕事をしながらの勉強はハードでしたが一流のファッション雑誌で見たものは今のネイルアートにも影響しています」
ファッションやビューティ関連の仕事が数多くあるなか、ネイリストの学校に通おうと思ったのはなぜ?
「手に職をつけたい、という一心でした。私はひとりっ子なので、会社勤めをしていた場合、もし母親が病気になったら面倒を見るために会社を辞めなければならないと思ったんです。苦労とは全く思っていないですが、父の看病を通してそういう経験を早い段階でしたので、自分個人でできる仕事を、技術を身につけたいと思いネイルの学校に通うことを決めました。また、闘病中の父が『自分にしかできないことをしてほしい』と言ってくれたことも後押しになりました。
ネイルの学校を卒業してネイリストになり、今はネイルアーティストという肩書きで活動をしています。ネイルアーティストというのは私が作ったもので、お客様への接客だけではなく、ネイルを通して自分で何かを作り出すということがメインの仕事です。ネイリストはやはりお客様が主体で、それはそれで素晴らしいけれど、私はもっとアートとしてネイルを捉えたかったんです。今はカタログや雑誌の企画によっては、全部自分でディレクションをして、キャスティングして、自分でできる範囲の体数だったら自分でスタイリングも組んでしまうし、アクセサリーも選ぶし、ハンドモデルも自分でつとめたりします。写真以外全部自分でやるみたいな感じですね(笑)。大変ですが、そうしないといいものが作れないし、私の世界観は出せないんですよね。ネイルは残せる仕事ではないので自分の想像を形に残すため、最近はネイル用品や雑貨のデザインなどもしています。
そう考えると、今までのファッションプレス、エディターという経歴が全て活きて今がある感じですね。“人生が自分を作っていく”じゃないですけれど、自分を構成しているものって、食べているものだったり会っている人だと思うんです」
日本の伝統をネイルに。ふたりの歌舞伎役者との出会いが導いた新しい挑戦
逆境すら糧にして自分のライフスタイルに合った働き方を模索し、本当にやりたいことを実現させていくHana4さんの姿勢はとても素敵だ。ネイリストからネイルアーティストと肩書きを変えたきっかけは何だったのだろう。
「3カ月だけですが、NYにネイルの修行に行っていた時期があって。そこから帰ってきてから、ネイルアーティストと名乗るようになりました。NYではブルックリンミュージアムの中でネイルをやらせてもらったり、日本ではなかなかできない経験をさせてもらいました。日本のネイルに比べて外国の方が技術は劣っているんですけれど、やはり発想力が長けているし、ちゃんとアートとしても認められている感じがあります。日本では美術館でネイリストがネイルをするという発想や感覚がまずないですよね。NYはそういうことが可能な土壌があるんです。いずれ日本でもそういうことができればいいなと思いますね。ネイルって正直その場で終わってしまう、残らないもの。けれどNYに行って、アーティストとして自分の仕事を残したいという思いが強まったので、ネイルアーティストという肩書きに変えたんです。自分の中では第2章を歩んでいる感じかな」
Hana4さんは海外での活躍も注目されているが、最近は日本の伝統のものをモチーフにした作品も増えている。今日本の伝統のものに興味が惹かれている理由とは?
「理由は、すごく個人的なことが大きいです。2015年に亡くなった坂東三津五郎さんという歌舞伎役者さんが、私の母の小学校からの親友だったんです。父が亡くなった直後に、母と三津五郎さんが出ていた歌舞伎を観に行って、楽屋にお邪魔した時『お父さんの代わりに、俺がお母さんとお前を守るからな』と、もちろん冗談でありながらも、そう言ってくださってとても励まされました。『ママに言えない相談事があったら言えよ』と言ってくださったんです。けれど、しばらくして三津五郎さんも父と同じ膵臓癌であっという間に亡くなってしまって。三津五郎さんの息子さんの巳之助くんのストーリーをいろいろ聞いてきて、私はそのふたりの姿を見て思うところがあって。現在、親の仕事を継ぐという感覚はあまり一般的じゃないと思います。でもこの人たちは、生まれたときから自分の将来の職業が決まっているわけです。そういう人たちって、たくさんの葛藤があってストーリーがあるんですよね。それを目の当たりにすると、その葛藤が世に知られずに、あの人はああだ、あの人はこうだと言われてしまう現状が、あまりいいものだと思えなくって。この世の中がもっとあったかいものでもいいのにな、と思うんです。巳之助くんは、お祖父様もお父様も亡くなって、そのビデオを見ながら頑張って稽古に励んでいるんですよね。そういうあったかい形で伝統を繋げていく姿を見ていて、私も何かしたいと思ったんです。ネイルという技術は歌舞伎よりは一般的にキャッチーなものだと思うので、彼らの技術だったり伝統を、まだまだ拙いものではあるけれど私の技術で多くの人に見てもらえるチャンスを作りたいなと思っています」
写真/Hana4さんのネイル作品とプロデュースしたグッズ。右のボードのデザインは携帯カバーにもなった。ネイルファイルは人気アイテム。ネイル用の筆は2016年10月発売予定。
その場限りのアートであるネイルを、スキルとして、作品として伝えていく
現在は講師として、ネイルセミナーも開催しているHana4さん。自分の技術を人に伝えるということにも力を入れているそう。
「自分のスキルを伝え広めていくというのは、すごく楽しいことだと思っています。講師として授業を通して生徒さんに技術を教えるというのもそうなのですが、私がよくやるのは、例えば素敵な絵を描いている若手のアーティストさんがいたときに『あなたの絵気に入ったから、私のネイルと物々交換しませんか?』と提案して、私がネイルをするのと交換で相手から絵をもらうというようなこと。お互いの技術の共有と交換ですね。それをスキルシェアとか、スキルトレードって私は呼んでいます。実は今、それを伝統工芸をやっている方や、人間国宝と言われる方々にお願いしに行っているんです。歌舞伎だけではなく、この先なくなってしまいそうな伝統をどうにかして引き継ぎたいんです。そういったものをネイルの形に取り入れたり、絵でも表現できたらと思っています。ネイルは残らないものだけれど、スキルとして伝えることによってちょっとでも残すことができれば自分自身の生きた証になるし、ネイリストがものを残すことによってネイルの価値がちょっとでも上がるんじゃないかなと思っています。12月ぐらいにまた個展をやろうと思っていて、今構想を練っているところです。前の個展では小さいものにしか書いていないので、今度はもうちょっと大きい作品で自分の仕事を残すということに挑戦してみたいですね」
最後にHana4さんのバッグの中身からお仕事のヒントをリサーチ!
「小さくて可愛いバッグとエコバッグの2個持ちが多いですが、状況に応じてこういうかっちりしたバッグと使い分けています。このバッグはRick and Royのものです。基本的に荷物は少なめ。iPhoneケースは私の絵がプリントされたもの。猫の顔のポーチはお財布です。カメラは常に持ち歩いていて、デザインの参考になりそうなものを撮っています。中央の赤リップは、私がプロデュースした携帯の充電器。キャップにはロゴが。レブロンの赤リップは最近の必須アイテムです。もともと赤リップが大好きで、周りからも赤リップのイメージだと言われるくらい(笑)。サングラスは友人からもらったもの。大好きなキャッツアイ型のフレームでお気に入りです。時計は、父と母がペアでつけていたもの。私のは母から譲られたもので、父と同型のものを私の夫がつけています」
【PROFILE】Hana4さん/ファッションプレス、エディターアシスタントなどの経歴を経て、フリーランスのネイルアーティストとなる。現在はサロンを持たず、アーティストとして日本国内だけでなく、海外でも活躍している。Instagram( @hana4)も大人気で、自身の高感度なライフスタイルやファッションも注目を集めている。
PHOTO:TAKAKI IWATA TEXT:YOKO ABE