憧れのファッションやビューティ業界で活躍している女性達は、どんなプロセスを経て夢を形にしてきたのだろう? その足がかりを掴むべく、第一線で活躍している先輩方にこれまでのキャリアをインタビュー。Vol.10はガールのステディブランド、H&MでPRコミュニケーションマネージャーを務める室井麻希さんにお話を伺いました。
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国連に勤めたかった学生時代を経て、アジア各国で暮らした3年間。そしてファッションと出合う
感度の高いアイテムがリーズナブルな価格で揃う、スウェーデン発のH&M。今や日本で知らない人はいない、このブランドのPRマネージャーを務める室井麻希さんは、意外にもファッションとは関わりのない大学生活を送っていたそう。当時の将来の夢はなんと国連職員!
「私は中学生の頃からいわゆる学級委員タイプで、ファッションよりも勉強の方に興味があったんです。将来は国連に行きたかったので、国連に入りやすい大学を選んで、政治を勉強していました。けれど、国連に入るには最低でも大学院に行くことが必須条件。ただ、進路を考えた時に自分の好奇心が大学院に向かなくて。一回外に出てみたいと思って、試しにという軽い気持ちで就職活動を始めました。そこでマーケティングという業界があることを知ったんです。就職活動って、企業も学生もお互いにお互いを見る機会ですよね。だから結局自分が合格するところって、自分に向いているところだったりして。私は合格率が圧倒的にマーケティング系の企業が高かったんです。『なんでそっちの方を勉強しなかったんだろう』と思っちゃうくらい(笑)。そうして、外資系の広告代理店の、戦略プランニングという部署に入ることになりました。」
その後3年ほどその広告代理店に勤めた室井さんは「どうしてもアジアの国で暮らしてみたい!」と思うようになり、思い切って会社を辞め単身香港へ渡る。
「今となってはちょっと恥ずかしいのですが(笑)、アジアに住む手段として実は香港に渡って3年ほどモデルをしていました。モデルを目指していたわけではないのですが、モデルって、お仕事でいろんな国に行けるでしょう? 当時アジアで日本人のモデルが流行っていたり、学生のころにモデルの経験があったということもあって、タイミングよく仕事もあったんです。それでその3年間は香港だけでなく、シンガポールや台湾に住んだりしていました。そこではファッション業界にどっぷり浸かった生活で、すごくおもしろかったですね。海外で長く暮らしてみると、自分がマイノリティだと実感することばかり。大変な思いもするけれど、その経験こそが大切なんだと思います。若い女の子たちにも、ぜひ経験してほしいな」
そして、室井さんはふたりの人と運命的な出会いをする。ひとりは今の旦那様、そしてもうひとりが当時ピーチ・ジョンの代表取締役を務めていた野口美佳さんだ。
「香港では素敵な出会いが多くありました。なかでも今の夫と出会いは、私はこのために香港に来たんだと思ったほど(笑)。そして、当時海外に進出しだしていたピーチ・ジョンの野口美佳さんとの出会いも私にとってターニングポイントです。野口さんに面接の機会をいただいて、憧れの彼女の元で働けるということがとても魅力的だったのでチャレンジしたんです。『PRに向いていそうだから、ちょっとやってみる?』ということで採用していただきました。彼女に今に続くPRの仕事へ、ぐっと引っ張ってもらったという感じです」
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もうひとつの運命の出会いを経て、H&Mへ。外国の同僚たちと渡り合うために必要なこと
ピーチ・ジョンで海外のPRも担当し、その後同社のPRマネージャーとなった室井さん。中国に進出するプロジェクトの際に、さらにその後の室井さんの運命を変える出会いがある。
「中国に進出した時に、現地でファッションショーをするというイベントがありました。そのために、丸山敬太さんにデザインをお願いすることになったんです。丸山さんと何カ月も仕事をし、丸山さんの物作りの姿勢を見て、自分がファッションを表面的にしか捉えていなかったということに気がつきました。それで私も、もっとファッションについて深くコミットしたいと考えるようになったんです。そのために世界を学びたいと思い、転職し、今の会社H&Mに入社しました。ただ、私は学生時代からファッションよりも勉強の方が好きなくらいだったから、ファッションビジネスという分野をすごくおもしろく感じていて、自分はそっちに向いているんじゃないかと思ったんですね。ファッションビジネスの世界は、変化も多いし、多様性がすごくあります。自分が型にはまれないタイプだから、ここは居心地がいいなと思ったんです」
そう語る室井さんは、現在PRコミュニケーションマネージャーという仕事に就いて、日本のH&MのPR部門の責任者を務めている。
「今の仕事はPRの戦略を立てることと、PRチームを育てるということ。3年後などの長期的なスパンでH&Mをどういう方向に持っていきたいか、戦略を立てています。ピーチ・ジョンの時の役割はどちらかというとプレイングマネージャーで、バスケットボールチームに例えると私が4番をつけているキャプテン。『みんな行くよ!』と言ってドリブルしてる感じでした。今はどちらかというと『スラムダンク』の安西先生というか(笑)。監督のポジションですね。うちの会社は日本人が半分くらいで、あとの半分は外国人。ディスカッションがすごく大事にされていて、意見を言いやすくするために敬語が禁止されているくらい。日本人って、自分が自信のあることだったら発するけど、ちゃんと答えがまとまるまで言わない傾向がありますよね。それが通用しないんです。もしそこで静かにしていると、主体的にこの問題に取り組んでいないという風に捉えられてしまうんですね。それが今の私のミッションで、現在H&Mは世界62カ国あるのですが、そのなかで私はこの日本のマーケットをPRとして目立たせたくって、そのためのアピールがまだまだ必要だと思っています。海外の同僚たちと渡り合うためには主張する力がすごく必要。日本は言わなくても分かり合えるカルチャーだけれど、うちの会社では国籍やバックグラウンドが違う人たちが集まっているので、みんなの共通認識がありません。だから、きちんと言葉にしないと議論が進まないんですよね。説明の仕方ひとつとっても、伝え方を工夫しなければいけないんです。日本人ってやさしいから引いちゃうんだけど、でも引いちゃダメなんですよね。今、それをすごく頑張っている最中です」
写真:室井さんがリーダーを務めるPRチームのメンバーやその他のスタッフ、そして尊敬するH&Mジャパン社長のクリスティン・エドマンさんと一緒に。「この写真はいつもデスクに飾っています。PRチームは私の自慢です!」。リーフレットにはH&Mの環境や社会への取り組みがまとめられている。
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ロールモデルは社長! リーダーとして、ママとして、ワークライフバランスを大切に
今やファストファッションの代表格のブランド、H&M。実はサスティナビリティのとても高い企業だということは知られていない。管理職の72%は女性が占め、環境や社会に貢献する活動も数多くしている。
「私の上司、社長のクリスティン・エドマンは二児のワーキングマザー。すごく徹底してワークライフバランスを進めている人なんです。彼女は定時の18時になると『みんな帰りなさい』ってオフィスをパトロールし始めるので、私たちは絶対に帰らないといけないんです(笑)。逆に朝来てから18時まではとにかく効率的に仕事をして、早く帰ることが習慣になっています。私も子供がいるので彼女の働き方にはすごく学ぶところが多いですね。結果も出しながら、チームも育てて、自分のプライベートも大事にするっていう、私のロールモデルなんです。新入社員の子に、入社の理由を聞くとH&Mのサスティナビリティに魅力を感じて、と言う人が多いです。女性が働きやすいということや、古着の回収活動、サステイナブルな素材へのこだわり、商品の生産国への長期的貢献など、H&Mに関わる人たちが働きやすければ、結果としてH&Mも続いていくという良い循環があるんですよね。私はこの仕事を通して、日本の女性を盛り上げていきたいと思っています。その点、うちの会社は女性がボスだから挑戦しやすいんです」
最後に室井さんのバッグの中身からお仕事のヒントをリサーチ!
「バッグはH&Mとバルマンのコラボレーションのもの。子供のグッズを入れるのでいつも大きめです。お財布はエルメス、手帳はクオバディスです。クオバディスはとても使いやすくって、PRチームみんな使っているくらい。手帳の上のハンドクリームはH&Mのファミリーブランド、アンド・アザー・ストーリーズ(& Other Stories)のもの。香りが良く気に入っているので、早く日本に上陸してほしい!」
オーガニックのコスメや、くまちゃんのブランケットにママとしての顔が。「カシウエアのブランケットは息子のお迎え用。これで子供に「迎えに来たよ〜」とやると喜んでくれて(笑)。エルバビーバのリップ&チークバームは私にも子供にも使えてうれしいですね。アヴェダのバランシングミストもPRチームみんな持っているアイテム。私は3番の「意志」という力を持つものを使っています。アポロは自分のおやつ用です(笑)」