毎日新作チェックに余念がない海外ドラマコラムニストが、それでも折に触れ何度もリピートして見てしまうという名作ドラマを公開! ベスト・オブ・ベストドラマの後半戦は、「逆境を生き抜く、女性主人公」をテーマに、強き女性主人公たちが生み出す躍動感満載なドラマ4本をピックアップ。
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波乱に満ちた少女ベスの、チェスを通じた青春ドラマ!
「クイーンズ・ギャンビット」1960年代のアメリカを舞台に、孤児院で育った少女ベスがアルコールや薬物依存症を乗り越え、チェスプレーヤーとして世界の頂点を目指すヒューマンドラマ。
9歳で母親を亡くし孤児院に引き取られ、そこで投与されていた薬物に依存してしまうなど、人生に翻弄される幼少期を過ごしてきたベス。その時、孤独から逃れるかのように没頭したのがチェスだ。孤児院の地下室で用務員のシャイベルからチェスを教えてもらい、類まれな才能を開花させていく。
その後引き取られた養母宅でもチェスを続け、やがて地元のチェス大会を総なめする天才プレーヤーとしてその名を知らしめるようになったベス。不運な幼少期から見事脱却できたように思われたが、幼いころに負った心の傷はティーンエイジャーになったあともなお彼女の精神を不安定にさせる。養母の死をきっかけにアルコール依存症になってしまったり、周囲から認められたいがゆえに高級ブランドのファッションを身にまとってファッショニスタを気取ってみたり、チェスの試合で惨敗したときには自暴自棄になってチェスから離れてしまう。
そんな時に彼女を支えもう一度立ち上がるきっかけをもたらすのが、彼女がこれまでに出会った人々だ。チェスで打ち負かしてきた男たち、元恋人、孤児院時代に出会った唯一の親友、ベスにチェスを教えた用務員のシャイベル。常に孤独を感じていたベスだけれど、気づけば多くの仲間に支えられていた。波乱に満ちたベスの人生。けれど本作は、チェスを通じたベスの青春物語でもある。
チェスの競技を奥深く描いたことも大きな話題に。キングやクイーン、ボーンなどコマを使ったハイソな頭脳戦を、実際の中継かのように時間をかけてしっかりと映し出す。それでも視聴者が置いてけぼりにならないのは、ベスもはじめはチェス初心者だったからだろう。全く知識のないところから基礎を覚えていくベスの過程を、私たちも作品を通じて体験していくので、エピソードが進むにつれチェスへの理解が深まっていき、面白味が増すのだ。
実際に、本作配信開始後にはアメリカでチェス盤の売上が170%アップしたり、オンラインチェスゲームのユーザー数が1.5倍になったり、チェス人口が急増したのだそう。
終盤で描かれるベスとロシア王者との対局シーンには、手に汗握る展開が多く用意され、私たちにも静かな、けれど熱い高揚感をもたらす。本作でベスと一緒に青春を味わってみて。
「クイーンズ・ギャンビット」
Netflixシリーズ。独占配信中。
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人生は悲劇と喜劇の繰り返し!シングルマザーがコメディエンヌに挑戦。
「マーベラス・ミセス・メイゼル」1970年代のニューヨークを舞台に、上流家庭の専業主婦、ミッジが夫に捨てられ、2人の子を連れて路頭に迷うところからスタートするコメディドラマ。
普通なら動揺してしまうところだけれど、気持ちの切り替えの早いミッジはすぐに職を探しはじめる。そんなミッジの根っからのポジティブさに救われることが多い本作。ひょんなことからミッジはトークの才能を買われ、プロのコメディエンヌの道を目指すことに。
大学教授の父と専業主婦の母のもとに一人娘として生まれ、箱入り娘として育てられたミッジ。実業家の夫と出会い、2人の子どもに恵まれ、ニューヨークの一等地にあるマンションで何不自由ない暮らしを送っていた。
そんなミッジが今や……と周囲は同情するけれど、実際のところミッジは自身を悲観していない。はじめこそ落胆したものの、新たな環境、そしてそこから広がる世界に前向きだ。これがもし結婚したままだったら……? 観客の前で下品なジョークを飛ばすことはもちろん、働くことさえ難しかったかもしれない。「なるようになる」精神で逆境をチャンスにかえ、人生を楽しく前進させるミッジからは学ぶことが多いだろう。
次第に頭角を現していくミッジは、多くの有名コメディアン/コメディエンヌとともに仕事をするチャンスに恵まれる。男性優位なコメディ社会において、女性であることを逆手にとって上品なファッションに身を包んで自虐ネタで観客を笑わせる。そうやって唯一無二な地位を築いていく。
仕事が軌道にのったとはいっても、ミッジにはそこからもさらに多くの試練が待ち受ける。両親の資金難や元夫ファミリーとの同居、恋愛や再婚話の破談。生きていたら起きるだろうさまざまなトラブルに、颯爽と、しかし必死に対処していく。彼女の恐るべき生命力、そして躍動感を見ていると、不思議と「面白く生きてやろう」という気になってくる。
人生は悲劇と喜劇の繰り返しだ。そう割り切ったうえで、どう生きていくとより充実した人生になるのか。ミッジがそのヒントを握っているかもしれない。お金がなくても、ヘアメイクとファッションに入念なミッジの70年代スタイルにもぜひ注目してほしい。
「マーベラス・ミセス・メイゼル」
Prime Videoにて、シーズン1~5まで独占配信中。
©Amazon Studios
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ケイト・ウィンスレットが熱演! アメリカを熱狂させたノンストップサスペンス。
「メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実」『タイタニック』をはじめアカデミー賞に7度ノミネートされ、『愛を読む人』で主演女優賞を受賞した実力派俳優ケイト・ウィンスレットが主演の、アメリカ発のサスペンスドラマ。
アメリカ・ペンシルベニア州の閉鎖的な田舎町で若きシングルマザーの変死体が発見されたことをきっかけに、その事件の真相が女性刑事メアによる捜査を通じて暴かれていく。父親、元恋人、親友、教師、神父。犯人候補が毎エピソードで変化するので、視聴者はラストまで何が真実かわからず、事件に翻弄されることになる。
実際にすべての秘密が明かされる最終話では、視聴が集中しすぎて配信元のHBO MAXのサーバーが一時的にダウンしてしまったほど。アメリカを熱狂させた衝撃のラストは、視聴後に何度も反芻してしまうほどのインパクト。最後の一瞬まで見逃せない極上のサスペンスだ。
完全なるフィクションなのだけれど、アメリカの保守的な田舎町にありがちな家族像や、高校でのヒエラルキーの描写が非常にリアル。隣町で起きているようなリアリティこそ、この作品に臨場感を感じる理由の一つだ。
ケイト・ウィンスレットの熱演も語らずにはいられない。イギリス訛りの英語を封印し、ペンシルベニア訛りの英語をマスター。ベッドシーンでは一切の加工を許さず、あえてしわやおなかのたるみをみせ、女性刑事であり田舎町の40代のシングルマザーのリアルを表現することにこだわった。
ケイトが演じたメアの人間像も面白い。地元の高校では誰もが憧れるスターだったものの、結婚、出産、離婚などを経て、人生に絶望。今や笑顔を見せない女性に。未解決事件の被害者に罵られ、家庭ではティーンエイジャーの娘との微妙な関係に悩みながら、淡々と自分の人生、そして毎日を生きる姿は、地味だけれどどっしり力強い。
アメリカの田舎町のリアルを立体的に描いた実力作。サスペンスとしてはもちろん、ヒューマンドラマとしても見どころ満載だ。
「メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実」
U-NEXTにて見放題で独占配信中
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報道と向き合う、2人の女性キャスターの正義を描く
「ザ・モーニングショー」もしも、長年同僚だった男性が、知らぬところで部下にセクハラをしていたとしたらーー。あなたは自分の立場が危うくなることを差し置いて、世間にそれを公表できるだろうか。
そんな疑問提起からスタートするこの作品。ジェニファー・アニストン演じる女性キャスターのアレックスは、長年ともに朝の情報番組でキャスターをつとめてきた同僚の男性キャスターのミッチが、複数の女性スタッフと半ば無理やり関係をもっていたことを知る。キャスターとして世間に報じるべきか、ミッチを信じるべきか、自分はミッチがそういうことをしていることに実は気づいていたのではないか……。後悔と葛藤、ミッジへの落胆などさまざまな感情がアレックスを襲う。
ジェニファー・アニストンと共に、この作品で主演を務めるのは、リース・ウィザースプーン。彼女はミッチの後任キャスターとして、新たにアレックスのバディとなるブラッドリーを演じる。若いときから大手テレビ局の花形キャスターとして輝かしいキャリアを歩んできたアレックス。対するブラッドリーはローカル局出身で、名の知れぬ威勢のよいレポーターとして地道に活動していた。そんな中ある動画をきっかけに異例の人事が発令され、ブラッドリーは全国ネットの情報番組キャスターに。キャリアも性格も正反対なアレックスとブラッドリーがうまくいくはずもなく、はじめはギクシャクしてばかり。
入局後、すぐにミッチのセクハラ騒動に直面することになったブラッドリー。見過ごすべきか、公表すべきか。みんなが自分なりの葛藤、正義感を抱えつつもなんとなくやり過ごしていく中、思わぬ事故が起きてしまう。それは関係者全員の心をえぐり、それを機にアレックスとブラッドリーは互いの正義について話しあい、ある行動を起こす。
シーズン1は、ミッチはもちろん、ミッチの周囲にいたプロデューサーや局長、同僚キャスターのアレックスなどの責任所在について、それぞれの視点から描くストーリー展開。続くシーズン2では、報道業界から追放となったセクハラの加害者、ミッチのその後が生々しく描かれる。世界のどこにいても中傷され、写真をとられてSNSにあげられる。家にこもって死ぬのを待つしかない悲惨な日常は、SNS全盛期な今だからこそ知っておくべき物語でもある。
伝統に縛られた保守的な組織で、正義感を振りかざし正しい行動をするのは、そう簡単ではない。ときに長いものに巻かれるほうが楽だったりもする。一方で、声をあげるべきときがあるのも確かだ。アレックスとブラッドリー、2人の女性の覚悟、そして決断をぜひ見守ってほしい。
「ザ・モーニングショー」
Apple TV+オリジナル。シーズン1~2まで独占配信中。