1日8時間、年間250タイトルを視聴する海外ドラマのプロが選ぶ、ベストドラマ8本をご紹介。前編は、人生を変えるほどに、深い感動と大きな衝撃をもたらす名作をピックアップ。
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キーワードは「BELIEVE」! 彼の信念は、私たちの心さえも救ってくれる。
「テッド・ラッソ ~破天荒コーチが行く~」エミー賞コメディ部門作品賞を2年連続で受賞する、Apple TV+の名シリーズ。アメリカ出身の元アメフトコーチ、テッド・ラッソが新天地イギリスで繰り広げる大冒険が、見る人に大きな希望をもたらしてくれる。
主人公のテッドは、サッカー監督経験ゼロにも関わらず、イギリスのプレミアリーグに所属するサッカーチーム「AFCリッチモンド」の監督に就任。チームメイト、ジャーナリスト、サポーターは呆れ果て、彼を罵倒するのだが、そんな中任期をスタートする。
亀裂ばかりのバッドコンディションなチームと、離婚直後でピリピリするチームオーナーの女性。普通なら逃げ出してしまいそうな状況だけれども、それさえ楽しむのがテッド流。
チームメンバーには、「BELIEVE」(信じろ!)と殴り書きした紙を控室に貼り、信念を説く。傷ついて立ち直れない女性オーナーには毎朝手作りのクッキーを渡し、頻繁なコミュニケーションを忘れない。用務員にコーチの才能を見出しフィールドに立つよう依頼するなど、彼の描くビジョンは”ワンチーム”。誰一人取りこぼさず、離れ離れのみんなをフィールドに集めていく。そして、やっぱり「BELIEVE」と説く。
懐疑的だったジャーナリストやサポーターさえも、すっかり味方につけてしまうほど人間力にあふれたテッドだけれど、彼にだって悩みはある。離婚、愛する息子との別離、そして心の病…。さまざまな経験を経て今のテッドがあり、だからこそ若いチームにプレイ以外のことを教えることだってできるのだ。
バラバラだったチームが、サッカーを通じて1つになっていく。構造はシンプルでありふれたものだけれど、何度繰り返し見てもテッドたちと同じように高揚感を味わえるし、人間がもつパワーと起こす奇跡に、感動の涙を流さずにはいられないのだ。
シーズン3は、1つになったチームの次のチャレンジを描きつつ、個々の人生にも一層クローズアップ。離れていった仲間たちのその後の人生など、ストーリーはより深みを増していく。
もし何かに迷うことがあったら、ぜひこの作品を見てほしい。“大丈夫だ。BELIEVE !(信じろ)!” と、テッドはきっと背中を押してくれるはずだから。
「テッド・ラッソ」
Apple TV+オリジナルシリーズ。
シーズン1~3まで独占配信中。
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傷だらけのシェフが織りなす、心震える感動ドラマ
「一流シェフのファミリーレストラン」2022年にディズニープラスで配信され、アメリカを中心に多くの人を感動の渦に巻き込んだ名シリーズ。2023年のゴールデングローブ賞作品賞にもノミネートされた話題作だ。
主人公は、かつてニューヨークの一流レストランでシェフを務めていたカーミー。兄の急死をきっかけに、故郷シカゴに戻って兄が経営していた地元の食堂「ザ・ビーフ」を継ぐことになる。
久しぶりに故郷にもどったカーミーだけれど、残された「ザ・ビーフ」の無秩序ぶりに閉口する。やる気のない従業員、不衛生な厨房、どんぶり勘定な会計担当、そして借金だらけの経営…。どこから手をつけたらいいかわからないほどひどい状態なのだけれど、一流料理大学出身のシドニーを右腕につけ、まずは従業員のモチベーション向上からはじめる。
店にはさまざまな従業員がいる。現状維持を強く望む会計担当のリッチーや、向上心ゼロのティナ、自分の仕事に集中しすぎてしまって輪を乱すマーカスに、逆にやる気のありすぎるシドニー。同じ店で働いていること以外、まるで共通点のない彼らをカーミーはどうまとめていくのか。答えは意外にもシンプルだ。
それは互いへのリスペクトと、常に感謝の気持ちを伝えること。ドラマの中で映し出される厨房はまさに戦争で、効率性が料理の質と提供量を大きく左右する。ストレスフルで怒号が飛び交うことが当たり前な環境なのだけれど、カーミーは上下関係を厨房内に持ち込まないよう努力する。互いを「シェフ」と呼び合ったり、どれだけ多忙でも「ありがとう」と伝えたり。このことが、やる気のなかったティナやマーカスを変えていく。
「ザ・ビーフ」に少しずつ希望の兆しが見えていくのだけれど、カーミーの気持ちは比例しない。ニューヨークで受けた大きなトラウマ、尊敬する兄の突然死など、彼が受けた心の傷はストーリーの展開と共に明らかになっていくのだけれど、この心の荷物が時にうまく行き始めた「ザ・ビーフ」の邪魔をする。カーミーが自分自身と向き合って乗り越えない限り、完全には危機を脱することはできないのだ。
家族の絆、レストラン経営の闇、リーダーシップ。あらゆる角度からエモーショナルに訴えかけてくるこのドラマ。カーミーがトラウマを乗り越えていく過程は、中でも特に心が震える。一人で悩んで、一人で乗り越えていくように見えるけれど、実は「ザ・ビーフ」の従業員や幼馴染が影で彼を支え、みんなで乗り越えていく。壮大なチームワークのドラマでもあるのだ。
本作の原題は「The Bear」。日本語にすると「くまちゃん」なのだけれど、これはカーミーが幼いころに兄から呼ばれていた愛称だ。最後に、店名を「The Bear」に変える件では涙腺崩壊。カーミーがようやく大きな一歩を踏み出した瞬間だ。
深く傷ついたカーミーが生み出す、心に響くドラマに注目して。
「一流シェフのファミリーレストラン」
ディズニープラスのスターで独占配信中。
© 2023 FX PRODUCTIONS, LLC. All right’s reserved.
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緻密な脚本の虜に! 記録を塗り替えたイギリス発スリラードラマ「ボディガード -守るべきもの-」
エミー賞作品賞ノミネートや主演男優賞の受賞を筆頭に、2019年に放送された最終回がイギリスのドラマシリーズ史上最高の視聴率を記録するなど、当時多くの記録を塗り替えたイギリス発の大ヒットスリラードラマ。
同じくイギリスの人気サスペンスドラマ「ライン・オブ・デューティー」で製作総指揮をつとめるジェド・マーキュリオが、本作の脚本を担当。政治とテロをテーマに、スリリングかつ巧妙なストーリーラインを描く。
主人公は、退役軍人のデイビッド。ロンドン行きの列車で、自爆テロ犯と偶然居合わせてしまうものの、粘り強く犯人を説得し、事故を未然に防ぐことに成功。その功績をかわれ、反テロ政策を推進する女性官僚ジュリアの護衛にあたることになる。ジュリアの政治姿勢と相反するデイビットだが、テロリストに命を狙われる彼女を必死に守る。そんな中ストーリーは中盤で思いもよらぬ展開となり、デイビッドはあれよあれよと窮地に…。最後まで視聴者を惑わせながらストーリーは全6話一気に駆け抜ける。
一度見始めたら最後、ラストまで一気見必至な中毒性の強い本作。何が真実なのかわからぬまま、緊張と興奮、スリリングな展開が休むことなく続いていく。それらすべては緻密に計算された脚本によるもので、毎エピソードに用意されるクリフハンガーは鳥肌もの。
あわせて、デイビッド自身の完璧でないキャラクターも本作の魅力の1つ。なぜ彼にここまで惹かれるのか。それはきっと、彼もまた心に深い闇を抱える一人だから。軍人時代の経験からPTSDを抱え、妻や子どもたちとは別居中。普段は冷静で無感情な彼が顔色を変えるとき、こちらにも興奮が走る。彼は善人なのか、それとも……? グレーゾーンにいる彼の最後を見届けたくて、気づけば次のエピソードを再生している。
デイビッドを演じるのはリチャード・マッデン。「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズのロブ・スターク役や『シンデレラ』の王子役で有名なスコットランド出身の俳優。甘いマスクと鍛え抜かれた肉体が印象的だが、本作のデイビッド役でエミー賞主演男優賞を受賞。確固たる名声を確立した。
「海外ドラマの本気を見た」と言っても過言ではない、極上の1作。視聴中は、アドレナリン大放出状態になるので、週末の一気見をおすすめする。見終わった後には、心地よい脱力感と爽快感に満たされるはず。
「ボディガード -守るべきもの-」
Netflixシリーズ。Netflixにて配信中。
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見るほどに心洗われる。涙腺崩壊のデトックスドラマ
「THIS IS US / ディス・イズ・アス」2016年にシーズン1の放送がスタート。2022年5月にシーズン6が放送されフィナーレを迎えた、多くの人から長く愛される感動作品。
ケイト、ケヴィン、ランダルの3つ子の人生を、過去、現在、未来という複数のタイムラインをいったり来たりしながら描くヒューマンドラマ。三者三様の人生がハートフルに、そしてエモーショナルに描かれる。
3つ子誕生の秘話や、彼らの両親レベッカとジャックの出会い、父ジャックとの絆や彼の死、パートナーとの結婚など、さまざまなライフイベントが奥深く、丁寧に映し出される本作。人生は、楽しいことばかりじゃない。悲しいことだってある。深く傷ついたり、ときには立ち直れなくて何年も苦しんだり、その結果家族間に軋轢が生まれたり。ケイト、ケヴィン、ランダルの人生はとてもありふれていて、ドラマといえど日常の延長戦。だからこそ私たちは、自分たちが歩んできた道、そしてこれから歩むであろう道を、彼らの人生に重ねてしまう。
ほとんどのエピソードにちょっとしたサプライズが用意されるのも、本作の見どころの1つ。特に、シーズン1のエピソード1のラストは、放送当時「これはやられた!」と話題になった。驚かされた視聴者も多いはずだ。
そんな粋な脚本を手掛けるのは、映画『ラブ・アゲイン』のダン・フォーゲルマン。「家族の絆」といった普遍的な題材に新鮮味を追加し、多くの人に衝撃と感動を届けた。
親の他界、恋愛、就職、結婚、離婚、子育て、介護。みんなが経験した、そしてこれから経験するかもしれないライフイベントを3人の視点から描く本作。つまずきながらも、愛とやさしさ、そして出会いで人生を豊かにしていくこのファミリーは、いつ見ても色褪せない力強さを併せ持つ。
感動で涙腺崩壊なエピソードが多くあるので、心に疲れを感じたら、ぜひこのドラマを見てみて。しっかり涙を流したあと、きっと「またがんばろう」という気持ちになれるから。
「THIS IS US / ディス・イズ・アス」
ディズニープラスのスターで配信中。
© 2023 20th Television.