アカデミー賞主要8部門9ノミネートの『イニシェリン島の精霊』から、家族のあり方について問いかけるフランス発の良作、ダメ男がひたすらに突き進む話題の邦画など、今見るべき新作映画3作品をピックアップ。苦悩する主人公たちの行く先に注目して。
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©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
『イニシェリン島の精霊』
2017年『スリー・ビルボード』でアカデミー賞ほか数々の賞を席巻したマーティン・マクドナー監督による5年ぶりの新作『イニシェリン島の精霊』。アカデミー賞の前哨戦、第80回ゴールデングローブ賞で作品賞・主演男優賞・脚本賞の最多3部門を受賞している本作。最初から最後まで隙のないスリリングなドラマ展開に脱帽する。
本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドのイニシェリン島。平和な小さい島で、気のいいパードリック(コリン・ファレル)は親友コルム(ブレンダン・グリーソン)から突然、絶縁を告げられる。動揺を隠せないパードリックは、コルムに理由を尋ねるがわからぬままで…。
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/おじさん同士の感情のもつれ&孤独を名優ふたりが熱演、
争いの果てに希望はあるのか?友人関係を元に戻そうとパードリックはコルムに必死に詰め寄るが、「これ以上自分に関わると自分の指を1本ずつ切り落とす」と恐ろしい宣言をされてしまう。絶望感に襲われながらもパードリックは、妹や島民も巻き込み事態を好転させようともがく。想いの掛け違いが重なるほど、架空の離島・イニシェリン島に静寂と重たい空気が広がる。
マクドナー監督は、デビュー作『ヒットマンズ・レクイエム』以来14年ぶりに、コリンとブレンダを主演に迎え、あてがきで脚本を書き上げた。おじさん同士の感情のもつれと孤独、すれ違いを見事に演じ切ったふたり。エスカレートしていく争いの果てにあるものとは…余韻の残るラストまで見届けて。
『イニシェリン島の精霊』
公開中
https://www.searchlightpictures.jp
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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© 2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES
『すべてうまくいきますように』
名匠フランソワ・オゾンが家族の生と死、愛を描いた映画『すべてうまくいきますように』。安楽死を望む父に向き合うふたりの娘たち、妻、元恋人らの葛藤を、ユーモアも交えて構成する。主人公の長女を演じるのは、フランスの国民的俳優として愛され続けるソフィー・マルソー。オゾン監督とは初タッグとなった。
小説家のエマニュエル(ソフィー)は、85歳の父アンドレが脳卒中で倒れたという報せを受け病院へと駆けつける。意識を取り戻した父は、身体の自由がきかない現実が受け入れられず、人生を終わらせるのを手伝ってほしいと娘たちに頼む…。
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© 2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE
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/尊厳死を望むのは罪なのか、生きてほしいと願うことはエゴなのか…
主人公たちの出した答えとはリハビリが功を奏し回復していく父だが尊厳死を望む気持ちは変わらず、その固い意志は娘を絶望させる。父に生きてほしいという娘の願いはエゴなのか、命を終わらせたいという父の望みは罪なのか…、答えの出ない問いをオゾン監督からつきつけられる。
誰にもいずれ訪れる最期のとき、家族との別れ。テーマは重いがオゾン監督ならではの軽やかなタッチで、父と娘や家族の結びつきを主軸に置いた本作。自分や大切な人の今後について、思いを馳せるきっかけになるかも。
『すべてうまくいきますように』
2月3日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ他公開
ewf-movie.jp
配給:キノフィルムズ
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©2022 映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会
『そして僕は途方に暮れる』
Kis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔が主演を務める『そして僕は途方に暮れる』が公開中。『愛の渦』や『娼年』などの三浦大輔によるオリジナル脚本・監督作で、もともとは2018年に舞台で上演されたものが満を持して映画化となった。都合が悪くなると逃げるダメ男を切羽詰まった表情で演じ続けた藤ヶ谷の、120分ほぼ出ずっぱりの姿が圧巻。
自堕落な日々を過ごすフリーターの菅原裕一(藤ヶ谷)は、長年同棲している恋人と些細なことで言い合いになり、家を飛び出す。その夜から、親友、大学時代の先輩や後輩、姉のもとを渡り歩くがすぐに逃げ、ついには母が単身で暮らす北海道の実家へ。そこも飛び出した裕一は、10年ぶりに家族から逃げていた父と偶然再会する。
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©2022 映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会
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©2022 映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会
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©2022 映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会
/「何もかも捨てて逃げたい」を実行した男、
「これでいいのか」という自問自答の先にある姿に注目「何もかも捨てて逃げてしまいたい」という誰もがよぎったことのある願望を、裕一はある意味で叶えていく。逃げるたびにこけていく頬、消せない後悔や「こんなはずじゃなかった」という思いが、刹那的な裕一のたたずまいからひしひしと感じる。
行く当てがなくなった果てで再会した父は、裕一の先を行くような“逃げ”の人生を全肯定して生きているような男だった。絶体絶命だと思っていた先のやり方を父に見る裕一だったが、これでいいのかとそこで初めて自問自答する。彼はまっとうになりやり直せるのか、それとも…。逃げ続けた男の末路&ラストの展開に期待して。
『そして僕は途方に暮れる』
公開中
https://happinet-phantom.com/soshiboku/
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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