90分間ワンカットで撮影された話題作や戦時下の沖縄を舞台にした邦画作品など、今観ておきたい新作映画をピックアップ。パッとしない日常に訪れる変化やヒロインの命を賭けた決断が、私たちの心を揺さぶる。
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© MMXX Ascendant Films Limited
『ボイリング・ポイント/沸騰』
あるレストランの大忙しの一夜を描き出した痛快映画『ボイリング・ポイント/沸騰』。撮影はなんと、全編(90分)ワンショット。編集なし、CGもなし、手ブレありのリアルさで、厨房で沸き立つ匂いまでそのまま伝えるような本作は、2022年英国アカデミー賞で4部門にノミネートされた。
一年で最も賑わうクリスマス前の金曜日、ロンドンで人気の高級レストランは満席だった。だが、オーナーシェフ・アンディは妻子と別居し疲れきっている。運悪く次々とトラブルに見舞われ、予約過多でスタッフたちは一触即発状態。そんな中、アンディのライバルシェフが有名なグルメ評論家を連れて予期せぬ来店をする。
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© MMXX Ascendant Films Limited
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© MMXX Ascendant Films Limited
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© MMXX Ascendant Films Limited
/元シェフの監督が撮った、高級レストランのリアルな舞台裏
予測不能な一夜が始まる12年間シェフとして働いた経験を持つフィリップ・バランティーニ監督は、もともと短編映画『Boiling Point』を完成させ、その後長編バージョン(本作)を製作。実際のレストランを舞台にした撮影は、縦横無尽なカメラワークとあいまって、まるでドキュメントを観ているような感覚になる。
限界ギリギリ状態の主人公をはじめ、根詰めて働くスタッフ同士の衝突や無礼な客との対峙まで、“絶対に何かが起こる”空気感がスクリーンを漂い、観客の胸をざわつかせる。予測不能な一夜を堪能して!
『ボイリング・ポイント/沸騰』
公開中
https://www.cetera.co.jp/boilingpoint/
配給:セテラ・インターナショナル
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©2022 映画「島守の塔」製作委員会
『島守の塔』
沖縄返還から50年。20万人が犠牲となった日本国内唯一の地上戦「沖縄戦」で必死に生き、戦う人々の姿を描いた『島守の塔』。コロナの影響で撮影が1年8か月もの間中断した本作だが、当時のキャストやスタッフが再集結しついに完成に至った。
第2次世界大戦末期の沖縄。本土より派遣され赴任した島田叡(萩原聖人)は内務官僚としての職務をまっとうしようとするが、多くの住民の犠牲を目の当たりにし「県民の命を守ることこそが自らの使命」と決意する。そして、警察部長の荒井退造(村上淳)も島田と行動を共にし、県民の命を守ろうと努力するのだが……。
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©2022 映画「島守の塔」製作委員会
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©2022 映画「島守の塔」製作委員会
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©2022 映画「島守の塔」製作委員会
/吉岡里帆演じる県職員の思い、
「生きる」ことを選択・決意するシーンは必見鉄血勤皇隊、ひめゆり学徒隊、集団自決……本作は、歴史で学んだ数々の惨たらしい出来事がなぞられるだけでなく、そこに息づく人々の思いを真っすぐに伝える。
注目は、W主演の萩原&村上に負けず劣らずの強い存在感を発揮した吉岡里帆。島田の世話役の県職員で市井の人である比嘉凛を熱演した。「御国のためなら自決」と、信念のまま突き進んでいた彼女が、「生きる」ことを選択するシーンは必見。瞳の中に強い決意と生命力を宿し、ただならぬ気配をまとった。命を守り抜こうとした人々の苦悩と葛藤の物語、いましっかりと受け取って。
『島守の塔』
公開中
https://shimamori.com/
配給:毎日新聞社 ポニーキャニオンエンタープライズ
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©︎2020 – AGAT Films & Cie – Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms
『アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台』
『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』は、崖っぷち俳優が刑務所の囚人たちに演技を教え、その舞台が大成功を収めたという実話を基にした1作。“アプローズ(applause)”とは“拍手喝采”という意味。当然ながら彼らのパフォーマンスへの賛辞を示しているのだが、ラスト20分の怒涛の展開で、一段と深く読み解けるタイトルの真意にうならされる。
3年間役者としての仕事がない中年俳優のエチエンヌは、囚人たちの演技のワークショップの講師として呼ばれる。サミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」を演目に決め、クセが強めの囚人たちと向き合うことに。次第にその情熱は囚人や刑務所スタッフの心を動かし、舞台は大成功。再演のオファーも相次ぐのだが……。
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©︎2020 – AGAT Films & Cie – Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms
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©︎2020 – AGAT Films & Cie – Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms
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©︎2020 – AGAT Films & Cie – Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms
/中年講師&囚人たちが築いていく信頼関係、
彼らが演じる「ゴドーを待ちながら」のラストは圧巻エチエンヌは囚人たちに「くじけるな、私を信じろ」とはっぱをかけ、演技レッスンを行う。しかし、一筋縄ではいかぬ&思いも寄らない行動を取る囚人たちとの関係は常に危うく綱渡り。それでも信頼関係が芽生え、その絆は強固なものになっていく。
彼らが挑戦する題目「ゴドーを待ちながら」は、言わずと知れた不条理劇のスタンダードプレイ。大事な人と会うこと、刑期を終えること、思うような生活を送ること……。そのために“待つ”ことを強いられている彼らが演じる「ゴドーを待ちながら」が訴えかけるものとは。真摯に立ち向かう姿からパワーを受け取って。
『アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台』
2022年7月29日(金)より全国順次公開
http://applause.reallylikefilms.com/
配給:リアリーライクフィルムズ / インプレオ
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