新型コロナウイルスの影響で、例年より2カ月ほど遅れての発表となったアカデミー賞のノミネーション。今年は、これまで以上にストリーミング作品が多く名を連ねたことでも話題に! 4月26日(月)に開催されるアカデミー賞を前に、今観ておくべきノミネーション作品をピックアップ!
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鬼才な監督が30年を費やした全編モノクロの最高傑作!
『Mank マンク』今年のアカデミー賞で、作品賞をはじめ主演男優賞、監督賞など、最多10ノミネートを果たしたNetflixオリジナル映画『Mank マンク』。本作では、『ゴーンガール』など、数々の名作を手掛けたことで知られる鬼才デビッド・フィンチャー監督と、伝記映画『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017)で、アカデミー賞主演男優賞を受賞した、名優ゲイリー・オールドマンがタッグ。1940年代のハリウッドを舞台に、名作映画『市民ケーン』の脚本家ハーマン・J・マンキウィッツの半生を辿る一作となっている。
驚くのが、全編モノクロ&モノラルで描かれる長編映画であること。あたかもその時代に撮られた映画のように、映像も音も一切のブレを許さず、ラストまで展開されていく。さらにびっくりするのは、普段カラー映像を見慣れた私たちが、ごく自然にこの映画を受け入れ、のめりこんでいってしまう点。これこそ、デビッド・フィンチャーの手腕! 撮影賞や監督賞にノミネートしたというのにも頷ける。
アルコール中毒で、誰にでも強烈な言葉を投げかけることで有名なハーマン・J・マンキウィッツ。一方で鋭い視点と天才的なセンスを持ち合わせる彼に多くの俳優、監督が魅了されていった。この作品を手掛けたデビッド・フィンチャー自身も“マンク”のキャラクターに惹かれた一人で、本作はなんと、30年もの間温めてきた作品だという。『市民ケーン』は有名であっても、その作品を生み出したマンク自身は、世界的には無名そのもの。しかし、フィンチャーの手によって、マンクのだらしなくて、破天荒だけれど憎めない、愛すべきキャラクターが蘇っていく。
『市民ケーン』の構想が生まれ、主演女優が決まり、作品が映画として世に送り出されるまでを、これまでに世に出ていない別のアングルから描くこの作品。アマンダ・セイフライドも助演として、本作を盛り上げていく。作品賞受賞に最も近いNetflix作品と呼ばれる本作。ぜひアカデミックな世界観を堪能して。
『Mank マンク』
Netflix映画、独占配信中。
https://www.netflix.com/title/81117189
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聴覚を失ったドラマ―の葛藤と再起を描く。
『サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜』『サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜』は、聴覚を失ったドラマーの青年の葛藤を描くストーリー。Amazon Prime Videoで独占配信され、作品賞をはじめ主演男優賞、脚本賞など6ノミネーションを受けている。
主演は、『ヴェノム』『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』への出演が記憶に新しいリズ・アーメッド。ドラマシリーズ『ナイト・オブ・キリング 失われた記憶』では、白人女性の殺害を疑われ、誤認逮捕されるパキスタン系の大学生役を怪演。見事エミー賞主演男優賞を受賞するなど、実力派としてハリウッドでの評価を伸ばしている。そんな彼が演じるのは、恋人のルーとロックデュオを組み、共にトレーラーハウスに住みながら、アメリカ各地のライブに参加するドラマ―のルーベン。ある日、病により耳がほとんど聴こえなくなってしまい、絶望の淵に立たされる。
音楽家の命でもある聴覚を失う。これがどれほど恐ろしいことか、本作は、映像と音響表現を使って、音が存在しない、ルーベンの世界へと視聴者をいざなう。それは暗く孤独で悲しい世界でもあるのだけれど、そこから這い上がって前に進み、乗り越えていこうとするルーベンの息吹を全身で感じることができる、素晴らしいシーンでもある。
生きていれば様々な壁にぶち当たる。それはルーベンも私たちも同じ。試練を乗り越えようとするルーベンに自分を重ねる視聴者も少なくないはず。ストーリーラインも、主演男優賞のノミネートを果たしたリズ・アーメッドの演技も、ルーベンを支える恋人ルーを演じるオリビア・クックの演技も、どこを切り取っても素晴らしくて美しい。アカデミー賞ノミネーションのニュースをきっかけに、ぜひ、多くのガールに観てもらいたい一作。
『サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜』
Amazon Prime Videoで独占配信中。
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08P2H4C76/ref=atv_dp_share_cu_r
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アイルランド発。2人の少女の友情を描くアニメーション。
『ウルフウォーカー』長編アニメーション部門にノミネートされたのは、アイルランドの美しい童話の世界を描くApple TV +オリジナルアニメ『ウルフウォーカー』。アイルランド・キルケニー地方を舞台に、“人は眠ると魂が抜け出し狼になる”という伝説「ウルフウォーカー」を描く。
制作を担当するのは、アイルランドのアニメーションスタジオ「カートゥーン・サルーン」。、今、世界で最も注目されるアニメーションスタジオの一つで、過去には『ブレンダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』など、手掛けた作品すべてがアカデミー賞にノミネートされている。
イングランドから父親のオオカミ退治に同伴する形でキルケニーにやってきた少女ロビン。森の中でメーヴという少女と出会い、友達になるが、実はそのメーヴこそ、“ウルフウォーカー”だった。彼女からオオカミの姿をした母親が森を出たっきり戻らないことを聞かされたロビンは、ある真実を目の当たりにする。そして、父親を窮地に陥れると知りながら、自分の信じる道を突き進むことを決心していく。
アイルランドの美しい自然の中で描かれる二人の少女の友情。そして力強いメーヴの決意。温かで壮大、そして“信じる道を進む”勇気を教えてくれる本作は、大人世代までしっかりと魅力を噛みしめることができる映画となっている。
本部門には、『2分の1の魔法』や『ソウルフル・ワールド』など、ディズニー作品をはじめ、数々の有力候補がノミネート。それらを差し置いて、『ウルフウォーカー』が受賞となれば、2002年の『千と千尋の神隠し』以来、約18年ぶりのハリウッドメジャーが制作に関わっていない作品の受賞となる。その真偽は、ぜひ本編をチェックしてから見守りたい!
『ウルフウォーカー』
Apple TV +オリジナル映画。独占配信中。
https://tv.apple.com/jp/movie/%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC/umc.cmc.amuoq00hqelfi98j0gvg641x
画像提供Apple TV+
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正義は勝つのか? リベラルな大人たちによる不平等な裁判を描く。
『シカゴ7裁判』60年代のアメリカ・シカゴで実際に起きた裁判が題材の実録映画『シカゴ7裁判』。Netflixで独占配信され、今年のアカデミー賞では、作品賞をはじめ脚本賞、撮影賞などで5ノミネーションを獲得している。
1968年、シカゴで行われた民主党大会で多数の被害者を出した学生デモ。その首謀者として逮捕されたのが、「シカゴ7」と呼ばれる7人の青年たちだった。彼らが逮捕されてから、判決がおりるまで、あまりにも不平等な裁判が事実に即して描かれる。
メガフォンをとったのは、『ソーシャル・ネットワーク』や『スティーブ・ジョブス』の脚本家アーロン・ソーキン。実録作品に定評があり、ドラマシリーズではヒット作『ニュースルーム』や『ザ・ホワイトハウス』を手掛けたことでも知られている。
本作でも当時の写真やエピソードをかき集め、裁判長の話グセや、検事の当時の服装など、ディテールに至るまでを再現。当時を知る人は、タイムスリップしたかのような感覚に陥るといっても過言ではないはず。シカゴ7のリーダー的存在、トム・ヘイデンを演じるのは、『ファンタスティック・ビースト』シリーズや『レ・ミゼラブル』への出演でその名を知らしめた、エディ・レッドメイン。正統派を思わせる美貌そのままに、アメリカの若者の命を奪うベトナム戦争に反対し、国をよりよくするためにデモを起こすトムをすがすがしく演じ上げる。
そんなトムと対極にいるのが、存在自体がまるでジョークなヒッピーのアビー・オフマン。警察部隊が差し向けた銃口に、花を差し込んでいったことでも有名な人物で、おちゃらけた性格ゆえにいつもトムと喧嘩になってしまう。そんなアビーを演じるのは、コメディアンのサシャ・バロン・コーエン。実生活がアビーと重なる部分が多いサシャの、キャスティングのハマりぶりは見事! 今年のアカデミー賞で助演男優賞にもノミネートされている彼の演技にもぜひ注目を。
本作は、図らずとも2020年10月、アメリカ次期大統領選がスタートするタイミングで配信をスタート。トランプ大統領と、シカゴ7裁判の裏で糸を弾いていたニクソン大統領がリンクするゆえに、多くの批評家から評価を集めた作品でもある。今を代表する一作はチェック必至。
『シカゴ7裁判』
https://www.netflix.com/jp/title/81043755
Netflix映画、独占配信中。
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アイコニックな4人のBlackたちの一夜を描くトーク劇。
『あの夜、マイアミで』Amazon Prime Videoで配信されている映画、『あの夜、マイアミで』は助演男優賞と脚色賞の2部門でノミネーション。1964年、当時のアメリカでアイコニック的存在の黒人男性4人が一堂に会したら……? 本作は、この仮説のもと繰り広げられるトーク劇となっている。
舞台は、2月25日、伝説のプロボクサーであるカシアス・クレイ(後のモハメド・アリ)がヘビー級世界王者になった日。彼の勝利を祝おうと、マイアミのホテルに集まったのは、過激な発言で知られる黒人解放運動活動家のマルコムX、アメリカンフットボール選手のジム・ブラウン、多くのアーティストに影響を与えてきた伝説のソウルシンガー・サム・クック。60年代を生きる黒人男性としての生きづらさや公民権運動について口火をきると、そこから持論が加速し、喧嘩するやら丸め込むやら大騒ぎ!
原作は、今年のアカデミー賞長編アニメーションにノミネートされるディズニー&ピクサー作品『ソウルフル・ワールド』で脚本をつとめたケンプ・パワーズによる舞台劇。4人の男性による「会話術」をベースに展開される映画は、役者たちの演技力とその場の臨場感、まくしたてるようなセリフの数々が魅力的で、舞台発ということに思わず納得してしまう。
本作で監督を務めたのは、『ビール・ストリートの恋人たち』(2018年)で、第91回アカデミー賞助演女優賞に輝き、ドラマシリーズ『アメリカン・クライム』や『運命の7秒』でエミー賞を獲得するなど女優としても定評のある、レジーナ・キング。彼女の初の監督作としても注目して鑑賞したい。
限られた登場人物、限定的な時間軸で展開される本作だけど、視聴者の心に残す余韻は大きい。当時の彼らの置かれた状況がいかにアンフェアか、同じ黒人男性でもひとくくりにはできない。それぞれに苦悩があり、葛藤があり、主張がある。差別を受けてきたことを嘆きながらも、立ち向かっていこうとする4人の姿に勇気をもらえるはず!
『あの夜、マイアミで』
Amazon Prime Videoで独占配信中。
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08S37LP5M/ref=atv_dp_share_cu_r