好きな人と恋に落ちて、つきたい仕事につくことは、私たちに当たり前に与えられた権利。しかし、時代を遡ったり、広い世界を見渡したりすれば、性別、宗教、人種、年齢などによって、それらが許されない女性たちもいる。そんな逆境の中で反旗を翻し、自由や権利を勝ち取るため強く立ち向かう女性たちにスポットを当てた海外ドラマをピックアップ。
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差別だらけな40年代ハリウッドで戦うアフリカ系女優を描く。
『ハリウッド』ミュージカルドラマ『glee』やホラードラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー』など、数々のヒット作品を生み出すハリウッドの奇才ライアン・マーフィーが、1940年代後半のハリウッド黄金時代をカラフルに描く。
脚本家や監督、女優や男優、スターになることを夢見て、アメリカ中から若者が集う当時のハリウッド。華やかな世界と共に存在するのは、同性愛者や女性、白人以外の人種に向けられる身も蓋もない差別だ。売れる映画の秘訣は、白人俳優を起用すること。それは脚本家や監督も同じで、たとえ才能があっても白人以外の人種であれば起用されない。
このドラマでは、そんな差別的なハリウッド社会の中で、人種、セクシュアリティ、年齢がバラバラな男女が集い、1つの大作映画を作り上げていく過程が描かれる。この作品の製作総指揮を務めたライアン・マーフィー自身も同性愛者。長くハリウッドの性差別に苦言を呈してきた彼は、“この時代をやり直せるならこうあってほしい”、そんなメッセージをこの作品に込めた。
注目は、大作映画での主演を目指すアフリカ系女優のカミール。女優としての実力はあるものの、肌の色のせいでいつも主役は別の女優へ、自身は使用人の役しか許されなかった。そんな中、“おかしい!”と自ら手をあげて主演女優オーディションに参加。ダメで元々と思っていた彼女のオーディションが、一部の大人たちによって思わぬ方向に進んでいく。
カミールから学ぶこと。それは、アンフェアな状況にいるのならば、結果はともあれ、その状況に対して「おかしい」と言う勇気を持つことだ。結果、カミールの勇敢な行動に多くの仲間たちが心動かされることになる。一人の勇気が多くの人に影響を与えていくのだ。
もちろん世の中そんなに甘くない。勇気を振り絞り行動したって周囲が耳を貸さないことがほとんど。しかし100人に1人かもしれないけれど、あなたの言葉に突き動かされる人がいるかもしれない。今を生きる私たちでさえも、今もなお不自由さを感じている。その中で、私たちもカミールのように行動すれば、いい変化が起きるかもしれない。そんな希望を抱かせてくれるエネルギッシュな一作だ。
『ハリウッド』
Netflixオリジナルシリーズ。独占配信中。
https://www.netflix.com/title/81088617
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成功の手段は無限大! 13歳ガールが教えてくれたこと。
『未来の大統領の日記』2020年6月よりスタートしたディズニーの動画配信サービス「ディズニープラス」。中でもオリジナルシリーズとして批評サイトで高評価を叩き出し、ティーンエイジャーから爆発的な人気を誇るのが『未来の大統領の日記』。
アメリカ合衆国大統領のエレーナが、母親から届いた自身の日記帳を開くところから物語はスタート。将来大統領になる女性は、過去に何を思い、誰と出会い、何を成し遂げたのか。彼女の中学時代が多彩な登場人物と共にリアリティたっぷりに描かれる。
将来大統領になる女性の中学時代と聞けば、クラスのリーダーで、勉強が抜群にできる否の付けどころのない女の子、そんなイメージを持つかもしれない。しかし本作に登場する中学時代のエレーナは、父親の死後、自分が家族を支えなくてはと頑張りすぎたり、女友達との仲に悩んだりする普通の女の子。ユニークな点をあげるとしたら、自分の得意を見つけることが飛び抜けて上手なこと。
学校選挙に準備万端で臨んだにも関わらず、エレーナではなく別の男子生徒が選ばれることがあった。エレーナはひどく落ち込むものの、校長先生の校内放送を聞いてすぐに“自分が得意なこと”を発見して行動する。そんなことを繰り返しながら、自分の進むべき道を見つけていく彼女の姿は、私たちに“夢の実現方法は何パターンもある”と教えてくれる。うまくいかないときもある。大切なのは、“もう終わり”と諦めるのではなく、別のルートを考えること。どう思考を切り替えて前に進んでいくかなのだ。
このドラマで製作総指揮を務めるのは、コメディドラマ『ジェーン・ザ・バージン』で主演のジェーン役を務めたヒスパニック系の女優ジーナ・ロドリゲス。大人になったエレーナ役で本作にも出演している。“多くのガールズたちに夢を与えたい!”そんな思いからスタートしたこの作品は、望めば夢は叶うと多くの女性たちに教えてくれるはず。
『未来の大統領の日記』
ディズニープラスで独占配信中。
https://disneyplus.disney.co.jp/view/#!/series/detailed/%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E3%81%AE%E5%A4%A7%E7%B5%B1%E9%A0%98%E3%81%AE%E6%97%A5%E8%A8%98/413537© 2020 Disney
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丸坊主に禁欲的な服装。脱出を選択した女性の未来。
『アンオーソドックス』実話を元に、厳しい戒律を遵守するユダヤ教の超正統派コミュニティを離脱した女性を描くNetflixのリミテッドシリーズ。ニューヨークのブルックリン地区に実在する本コミュニティ出身の役者を起用したり、彼らが使うイディッシュ語でストーリーが展開されたり、チャレンジングな試みが話題の一作。
超正統派に所属する女性たちは、禁欲的な服を身につけ、結婚と同時に頭を丸刈りにする。本作の主人公エスターが、親の決めた相手との結婚を機にバリカンで頭を丸刈りにするシーンは衝撃的なものだ。エスターを演じたイスラエル出身の女優シラ・ハースは、これを長回しの1テイクで実現したシーンだと語る。準備はあえてせず、そのときに湧き出る自然な感情を大切にしてほしいと監督に言われたそうで、作中でのエスターの笑顔の中で涙を浮かべる表情は、シラの本心から湧き出たものだ。
その後、このコミュニティに閉塞したエスターは身ひとつでベルリンへ脱出することになるのだけれど、制限されることの多かったニューヨーク編と、様々な人と出会い、初めてジーンズを試着してみたりクラブに出かけたり、エスターが今まで感じたことのなかった“自由”を体感するベルリン編。この対比をぜひ楽しんで。特にカツラを脱ぎ捨てる海辺でのシンボリックなシーンは必見。エスターの新しい日々が可能性で満ちていることを証明してくれる。
元々この作品は、デボラ・フェルドマンによる伝記が原作。デボラ自身、ブルックリンの超正統派コミュニティで育ち結婚するも、女性に何の決定権も与えられない状況を嘆き、2009年に息子を連れてベルリンに脱出。その4年後にそのストーリーを自伝におさめている。本作はそんなデボラの経験を盛り込みながらも、原作に描かれないエスターの新たな人生がいきいきと描かれる。宗教自体が悪いわけではない。大切なのは、誰にでも決める権利があるということだ。自分の意思でコミュニティを出る決意をしたエスターは、ベルリンでどんな道を選択していくのか。彼女の人生第2章を見守って。
『アンオーソドックス』
Netflixオリジナルシリーズ。独占配信中。
https://www.netflix.com/title/81019069
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抑圧された時代を中指立てながら生きる奔放女性。
『ディキンスン 〜若き女性詩人の憂鬱〜』類まれなる才能に恵まれながらも、「女性」だからと活躍を許されなかった、実在するアメリカの女性詩人・ディキンスンの半生をヒップに描くブラック・コメディドラマ。1700もの作品が死後に発表されるなど抑圧された時代の中で、奔放そして豪快に生きた彼女の若かりし日々を女優で歌手のヘイリー・スタインフェルドが演じる。
19世紀のマサチューセッツ州を舞台にするものの、挿入歌にはビリー・アイリッシュなどのポップな音楽が使われる。男性しか参加が許されない大学の講義に、男性に変装して忍び込むなど、時代に中指を立てるディキンスンの姿勢と音楽がマッチして心地いい。
“女性だから男性より活躍してはいけない”時代を才能あふれる女性はどう生きたのか。実際のディキンスンは、自身の作品に新しい文法を取り入れ、独特の表現を使うなどしていたため、当時の男性編集者から受け入れられず、お蔵入りになった作品も多い。しかし、月日を経てその考えは見直され、ようやくその才能が認められるようになった。つまり当時のディキンスンは時代の先を行きすぎていたのだ。
そんなリアルストーリーを参考にしながら、新しいディキンスンの解釈を映像化したことでも話題の本作。真偽は明らかではないが、ドラマの中でのディキンスンは親友に恋したり、型にはまらず作りたいものを作り、愛したい人を愛した自由な女性。自分らしく生きるとは……? 人と違うことをしないように、常に気をつけている人もいるかもしれない。それでもいいし、それを窮屈に感じるなら、もっと自分らしく自由に生きていい。どんな環境でも“自分らしく生きる”ことを諦めなかったディキンスンを見て触発される女性も多そうだ。
『ディキンスン 〜若き女性詩人の憂鬱〜』
Apple TV+オリジナルシリーズ。独占配信中。
https://tv.apple.com/jp/show/unknown/umc.cmc.1ogyy5s2agasxa5qztabrlykn