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注目のブックストアに今読みたいおすすめの5冊を教えてもらう連載企画【BOOK STORE RECOMMEND】。今回は、フリーペーパーやフリーマガジンなど“TAKE FREE”の本だけを集めた「ONLY FREE PAPER」オーナーの松江健介さんが、今注目している5つのフリーペーパーをセレクト。インスピレーションを刺激する、自由な視点あふれる5タイトルを今すぐチェック。
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翻訳家みずから海外作品をナビゲート。
“もっと海外文学を!”、“翻訳物はおもしろい!”がコンセプトのフリーマガジン『BOOKMARK』。最近刊行された翻訳小説から、テーマに基づきおすすめの海外文学をセレクト。それぞれの作品を手がけた翻訳家たちが、作品の魅力を存分にそしてわかりやすく伝えてくれる。
「最新号は短編作品の特集なのですが、そのタイトルが“Be short!”。単なる短編特集と思わせない、ユニークなタイトル付けに心惹かれます。海外作品を日本語に翻訳するにおいては、ただ言葉を置き換えるだけじゃなくて、それぞれの文化における細かな機微みたいなものも感じ取らないといけない。翻訳の過程を経てきた人たちが、その本をどのようにおすすめするのか。単純な本の紹介にとどまらない“翻訳者からのレコメンド”という切り口が、とてもおもしろいなと感じます。
定期的に発行されていて、すでに最新号は15冊目という人気のフリーペーパーですが、その理由のひとつにプロダクトとしての完成度の高さがあると感じます。CDアルバムのようなサイズ感でフルカラー。収集心を掻き立てるデザインが、手元に置いておきたい!という気持ちにさせてくれます」
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農業をキーワードに“サステナブル”を考える。
次世代の農業の担い手たちをメインターゲットとするフリーマガジン『アグリジャーナル』。持続可能な農業のためのアイディアや最新アイテム情報、さらには農業ライフをもっと楽しむためのファッション&カルチャー情報まで、幅広い切り口でコンテンツを展開。農業という一見コアなジャンルを、ファッション誌さながらのキャッチーな切り口でフィーチャーする。
「普段だとなかなか手に取らないようなテーマの雑誌でも、フリーならちょっと読んでみようって思いませんか? そしてこの『アグリジャーナル』は、丁寧に編集されていて、農業を仕事としていなくてもおもしろく読める。有料の雑誌に負けない濃い中身と編集力の高さが魅力です。
農業と聞くと堅苦しく感じる人もいるかもしれないですけど、この本には自給自足だったり、循環する暮らしだったり、これからを生きていく上で欠かすことのできないトピックスが満載。今後ますます重要視されるであろう、“パーマカルチャー(=恒久的に持続可能な環境を作り出すために社会や暮らしを変化させていこうとするデザイン手法)”についての第一歩として読んでみるのも面白いと思います」
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編集の妙で縄文時代をキャッチーに。
日本人なら誰もがその存在を知っていて、それでいてその実態は誰もよく知らない。そんな縄文時代をテーマに、土器や土偶に思いを馳せ、縄文人の心を読み解こうとするフリーマガジン『縄文ZINE』。“都会の縄文人のためのフリーマガジン”をキャッチコピーに、土偶と同じポーズで撮影するファッションスナップや土器にまつわるエッセイ、縄文時代がキーワードのインタビューまで、他では読めない個性あふれるコンテンツを展開する。
「縄文時代って、最近でこそ大きな美術館で企画展が催されたりしてブームになってきているんですが、発刊当初は全然注目されていなくて。そんな縄文時代を、ポップカルチャーの切り口に乗せて広く届けようと生まれたのが『縄文ZINE』です。
正攻法でその良さを伝えても誰も興味を持ってくれなさそうなテーマでも、どう編集するかで周りの反応が違ってくる。この“どう編集するか”を考え抜くっていうのは、本に限らずものごとを考える上で欠かせない視点だと思っていて、そういう意味でもこの本をおすすめしたいです。僕のお気に入り企画は、ここ3〜4号くらい連載されている未来考古学っていうコーナー。現代で日常使いされている傘とか車のエンブレムなんかを、数千年未来の人が発掘したらそんな風に考察されるのか? 切り口のユニークさが光る企画で、とても好きなコンテンツです」
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コミュニティ作りとしてのフリーペーパー。
その名の通り“音楽”がテーマの『MUSIC HOPE』は、「ONLY FREE PAPER」オーナーの松江さんもメンバーとして参加しているバンド「TAOH」が発行するフリーマガジン。100部限定で無料配布され、バンドの音源を収録したカセットテープも付属する。
「バンド活動をしていく中で、どこか他の音楽メディアが自分たちの活動を取り上げてくれないかなって思っていました。当時のバンドメンバーは、本のディレクションができる僕と当時ドラマーだったデザイナーと元ライターの3名。このメンバーだったら自分たちで本を作れるじゃんという考えで生まれたのが『MUSIC HOPE』です。
やりたいのは、フリーマガジンをフックとした音楽に関するコミュニティづくり。『MUSIC HOPE』は記事の枠を開放していて、Twitterで呼びかけて寄稿をしてもらったり、広告を無料で募集したりしています。海外のバンドの関係者からTwitterで突然連絡が来てインタビュー記事を送ってもらったりとか、知らない人たちを巻き込んでコンテンツを作ることで新たな世界が広がることも多くて。フリーペーパーをフックに、自分たちのバンドを中心とした音楽コミュニティを作りたいという思いを、自分たちがたまたまできた本っていう形でアウトプットしたのがこのフリーペーパーです」
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大判で楽しむアートの魅力。
「THE PAPER for Art and Life」は、アートディレクターである駿東宏さんが中心となって生まれたアート新聞。“アナログの肌触りと息遣いを形に”をモットーに、感受性を豊かにするアート体験を提供する。
「意外かもしれませんが、アート系のフリーペーパーって今あまりないんです。最近、カルチャー系のフリーペーパーの数がとても減っていて。長く発行が続いているものが少ないし、新たなものが出てきてもすぐ終わっちゃったり。そんな中で、昨年創刊された『THE PAPER』を見て久しぶりに“THEアート”なフリーペーパーが出てきたな、と感じました。
大判で折りたたまないつくりにも意気込みを感じるし、有名なアートディレクターの方が改めてフリーペーパーというアウトプットと向き合っているのもおもしろい。最近、無駄や余白を感じるフリーペーパーが減ったというか、フリーペーパーを作るにしても何か目的があって、その目的を最短距離で果たすためのツールとしてフリーペーパーがあるっていうものが多くなった気がするんです。でも、本当はフリーペーパーって自分たちの好きに作ってこそおもしろい。本人たちの“作りたい”という意志の強さを感じるものにこそ、おもしろさが秘められているように感じます」
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<ABOUT ONLY FREE PAPER>
「ONLY FREE PAPER」は、その名のとおりフリーペーパー・フリーマガジンの専門店。店内には全国から集まったフリーペーパーがところ狭しと並び、その種類は常時100〜120種類という豊富さ! 作者の思いがあふれんばかりに詰まった、熱量の高い作品たちをその手にとって楽しむことができる。気に入ったものはもちろん持ち帰り可能。店内のフリーペーパーは在庫がなくなり次第入れ替わるので、来店するたびに新たなタイトルとの出会いが!
ローカル情報誌にトラベルガイド、アートや写真を扱ったカルチャー誌までジャンルはさまざま。その規模も、企業が作り大規模に発行されるものから小ロットを手作業で仕上げるものまで多種多様で、そのどれもが独特の魅力を放つ。お金を出して売り買いするものではないからこそ、作り手の熱意がストレートに伝わるのがフリーペーパーのおもしろさ。「ONLY FREE PAPER」でお気に入りの一冊を探そう!
SHOP INFO
住所:東京都目黒区中目黒3-5-3 Space Utility TOKYO内
TEL:03-3792-2121
営業時間:13:00〜20:00
定休日:日、月、火定休(イベント開催時の日曜は営業)
http://onlyfreepaper.com/