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注目のブックストアに今読みたいおすすめの5冊を教えてもらう連載企画【BOOK STORE RECOMMEND】。今回は、緑あふれる空間で本と過ごす豊かな時間を提案するブックストア「ROUTE BOOKS」に“自然を感じる本”をお尋ね。選書担当の石川歩さんが、おすすめの5冊を選んでくれました。
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『八月の六日間』北村薫(著)(KADOKAWA/角川書店)¥640
心をほぐす山歩きの時間。
主人公は、文芸雑誌の副編集長をしている“わたし”。上司と部下の調整役で心をすり減らすことも多い彼女が山に登るのは、“自分を取り戻す”ため。忙しくても定期的に続けている山歩きでの経験を通じて、一人の女性が日常生活を見つめ直していく姿を描く連作長編。
「この本をおすすめしたい理由のひとつが、主人公の女性がとても素敵だということ。編集の仕事って忙しいし、部下の面倒を見なきゃいけなかったり、責任ある立場になっていたり、“わたし”の悩みは尽きません。でも、彼女はあまり愚痴を言わない。そういうものはまるっと山に持って行って、そこで自分を見つめ直し、自分を取り戻していくんです。それは、リセットという一言で片付けてしまうのはもったいないくらいの美しい時間。読んでいると、自分も山を歩いて無心になった気分になれます。読めば山登りしたくなる、登山グッズについての細かい描写もおすすめポイントです」
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『ぐるりのこと』梨木香歩(著)(新潮文庫)¥506(税込)
身近なことから自然を考える。
“ぐるりのこと”とは、自分の身の回りのこと。日常生活や執筆のための取材、旅先での出会い。梨木香歩は、生きていく中で日々胸に去来する強い感情にどう向き合い、何を考えるのか。彼女ならではの視点で世界と心を通わせる様子を、繊細で美しい表現とともに綴ったエッセイ集。
「小説やエッセイを数多く手がけている梨木香歩さん。彼女の本ならどれでも“自然を感じる”というテーマに合うと思ったのですが、身近なトピックを起点に自然について考えたこの1冊を特におすすめしたいです。自然に思いを巡らせるといっても、ただ環境破壊を憂うというわけではありません。環境を大事にしつつ、自分の生活も豊かにしていくにはどうすればいいかを考えるのが梨木さん。この本では、問題提起をしたうえで、ポジティブな視点で梨木さんなりの結論を示してくれます。読み終わったあとには自分の“ぐるりのこと”にもきっと目が向くはず。気づきをもらえる1冊です」
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『山伏ノート ~自然と人をつなぐ知恵を武器に~』坂本大三郎(著)(技術評論社)¥1,580
山伏から学ぶ“自然とつながる”知恵。
筆者である坂本大三郎さんは、山形県の出羽三山を拠点にする山伏兼イラストレーター。自分自身や社会を捉え直そうと、30歳を迎え突如山伏となった筆者が、自らの経験を深める上で学んできた山伏の歴史的背景や文化、自然との共生の技術を体系的にまとめた1冊。
「まず最初に、山伏って現代にも存在しているの?って思いますよね。白装束をまとった屈強で強面な男性を思い浮かべてしまいますが、筆者である坂本さんはいわば“現代の山伏”。インターネットも使うし、決して人里離れた場所だけで暮らしているわけではありません。イラストレーターや執筆業、店舗経営などをして生計を立てつつ、山伏としても活動しています。そんな中で彼が学び取ってきた“山と里をつなぐ”山伏の文化には、これからの社会を健やかに生きていくためのヒントがいっぱい。自然とつながるには、具体的にどんなことをすればいいのかの知恵も詰まっていて、読み応えのある内容です」
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『庭とエスキース』奥山淳志(著)(みすず書房)¥3,200
自然とともに生きたある老人の記録。
北海道の丸太小屋で自給自足の生活を営む「弁造さん」の姿を14年にわたり撮影し続けた写真家・奥山淳志。糧を生み出す庭を自ら作り上げ、自然とともに生きた弁造さんの姿を、24篇の物語と40点の写真で伝える写文集。
「自然と真摯に向き合って生きた弁造さんと、それを誠実に写しとり1冊の本にした奥山さん。この2人の関係がとても素敵で、選書のテーマをもらったとき、この本がまず頭に浮かびました。砂糖がわりにするためにメープルの木を庭に植え、メープルが採れるまで試行錯誤しながら育てるなど、弁造さんの自給自足は徹底したもの。だからこそ、この本を読んだあとには木が生えているというただそのことが本当はすごいんだと感じられるんです。この本には、こうすれば正解だ!という簡潔明瞭な答えが書いてあるわけではないのですが、読んだ後、きっと世界を見る目が変わると思います」
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『life with a plant』プランタリウス(著)¥1,000
飾って眺めて、楽しむ植物。
カメラマン丸山和久、デザイナー間宮真介、プランツアーティスト田中南斗の3人を中心に活動する「プランタリウス」。“植物を知ると、毎日が楽しくなる”をモットーに活動するユニットが、物のかわいさ、かっこよさ、面白さを広めるべく発行されたZINE。
「最後はひとつ、アート作品を。これは、植物のある風景や珍しい植物写真など、多種多様な21枚の写真たちを組み合わせた写真集。プランタリウスのメンバーが、植物をもっと普段の生活に取り入れるにはどうしたらいいのかと考え、1枚ずつ楽しめるカード形式の写真集が生まれたそうです。それぞれの写真を眺めていると、一言で植物と言っても、いろいろな切り取り方があるんだなと教えられます。たとえばもみじ模様の入ったガラスの写真なんかも含まれていて、これら全部を“植物を楽しむ”という視点で提案できるって、自由で心地いいですよね。季節や気分に合わせて入れ替えて飾って、日常的に植物を楽しむきっかけにしてみるのもおすすめです」
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<ABOUT ROUTE BOOKS>
東上野の路地に建つ古い工場を、かつての雰囲気を残しながらリノベーションした「ROUTE BOOKS」。廃材を使ったインテリアと植物があふれる心地よい空間には、“小さな本屋だからこそ出会える本を”をモットーに独自の視点でセレクトした新刊書籍がずらりと並ぶ。
本屋だけでなく、ボタニカルショップ、カフェ、インテリアショップとさまざまな顔を持つ「ROUTE BOOKS」。カフェメニューには個性の違う2種類のコーヒーと手作りのお菓子、さらにはビールもラインアップ。本を選んだり、おしゃべりしたり、打ち合わせしたり……。ソファーや椅子でゆっくりくつろぎながら、思い思いの時間を過ごせる。次の週末、クリエイティブな刺激をもらいに、ぜひ足を運んで!