秋の夜長に腰を据えて観るなら、実話がベースの社会派ドラマを。人類史上最悪の原発事故に、ニューヨークで起きた未成年に対する冤罪事件、60年代の英国議会のスキャンダル。ヘビーなテーマを丁寧に描き、エミー賞でも高評価を得た3作をピックアップ。
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HBOが手がける最高傑作。
『チェルノブイリ』1986年4月26日に発生した、旧ソ連のチェリノブイリ原子力発電所事故。あまりに有名な原発事故だけれども、その詳細を知る人は少ないのでは? 事故後、発電所付近に住む約30万人の住民が避難を余儀なくされ、長期的な死者数をいれるとその被害は数百万人に。『チェルノブイリ』は人類史上最悪の原発事故の2年間を全5話で刻々と描いた衝撃作。震え上がるほどのリアルな描写が世界中で話題となり、批評家のあいだでは、『ゲーム・オブ・スローンズ』を超える海外ドラマ史上最高の評価を得ている。
身震いするほどリアルに描かれる放射線の脅威はもちろん、苦難の中で繰り広げられる人間ドラマも見どころ。国家を守ることを一番に考える政府関係者のボリスと、住民ファーストで動く核物理学者のレガソフ&ウラナは、はじめこそ対立するものの、やがて「原発の被害を最小限に食い止める」ことを共通の目的に向けて歩み寄り、絆を感じられる関係に。自身の寿命を犠牲にして事故に対応する3人はまさに、惨劇の中の希望。無表情の中に悔しさを滲み出す名優たちの演技には、心打たれること間違いなし!
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ジャレッド・ハリスが演じる、核物理学者のヴァレリー・レガソフ。事故対応に当たるなかでその規模の大きさにいち早く気付き、事故原因究明調査において決定的な役割を果たしていく。
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ソ連閣僚会議の副議長、ボリス・シチェルビナを演じるのはスウェーデン人俳優ステラン・スカルスガルド。最初は小さく見積もっていたが、エネルギー部門の責任者として対応に追われるなかで次第に事故の重大性に気付いていく。
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エミリー・ワトソン演じる核科学者ウラナ・ホミュックは、実在した複数の科学者をベースに創造された人物。病院に運び込まれたチェルノブイリ原発の技師たちを取材し、事故の原因を究明しようとする。
/多くの被害を出しながら、それでも保身に走る者がいる一方で、命がけで救助にあたる消防隊員や瓦礫処理に追われる作業員、そして事情を説明されず、避難を迫られる住民がいる。このドラマが胸に迫るのは、関係する全ての人を情緒豊かに表現するからこそ。散りばめられた小さな感動が、ただ原発の恐怖を煽るだけではないメッセージを伝えてくれる。
当時のチェルノブイリと同型の発電所でロケを敢行した映像は、“地上波では到底放送できない”との声も挙がるほどのリアルな仕上がり。あまりの描写は見るのが辛いほどだけれど、過去の惨事から目を逸らさないことこそ未来への希望。技術と情熱を駆使して当時の様子を忠実に再現したHBO渾身の一作、ぜひその目で確かめて。
『チェルノブイリ』
BS10 スターチャンネルで放送中。
https://www.star-ch.jp/drama/chernobyl/
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配信後、冤罪事件を批判してSNSが大炎上。
『ボクらを見る目』2019年5月に配信された当初、Netflixで最もクリックされたドラマとして話題になった『ボクらを見る目』。1989年にニューヨークのセントラルパークで実際に起きた20世紀史上最悪の冤罪事件を全4話で描く。
セントラルパークをジョギング中だった白人女性を襲ったとして、誤認逮捕されたアフリカ系・ヒスパニック系の少年5人。無罪だと気がつく余地が十分にあるにも関わらず、情報操作と人種への偏った思い込みだけで彼らは逮捕され、理不尽極まりない扱いを受けることに。まだ子どもだった彼らが経験した悪夢のような現実を目の当たりにすると、実話であるという事実に胸が張り裂けそうになる。
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それまで普通の暮らしをしていたはずが、一夜にして犯罪者として糾弾されることに……。少年期~青年期を1人で演じ、抜きん出た存在感を放ったジャレル・ジェローム(右)は、エミー賞で最優秀主演男優賞を受賞した。
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決定的な証拠はなく、自白にも矛盾が多数。それにも関わらず、警察や検察に深く根付いた人種差別意識が、無実の少年たちを有罪へと導いてしまう……。
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当時14~16歳の少年に向けられるにはあまりに厳しい世間の目。腐敗した駆け引きに巻き込まれた少年たちは有罪判決後歩んだ壮絶な人生と、それでも希望を捨てなかった信念を感じ取って。
/このドラマを観てショックを受けたミレニアル世代が「#CancelLindaFairstein(フェアスタインを追放せよ)」というハッシュタグと共に、当時5人を無理やり追訴した検察官フェアスタインを猛烈に批判。彼女はネット上で“公開処刑”され、出版社からの契約も打ち切り、SNSアカウントを全て封鎖する事態に追い込まれた。
アメリカでは性犯罪者として有罪判決を受けると、牢獄の中でさえひどいイジメを受け、出所後もそのレッテルが一生つきまとう。重すぎるほどの題材を取り扱う本作が観るべき作品として評価されているのは、当時の関係者や実際の5人に話を聞き、限りなくノンフィクションに近いドラマに仕上げたから。「実際にあった事件」だという衝撃が私たちの胸にずしんとのしかかり、”何か”を残していく。
ほぼノーキャリアな若手俳優たちのパワーあふれる演技も本作の注目ポイント。その中のひとり、逮捕時16歳で最年長だったコーリーを演じたジャレル・ジェロームは、今年のエミー賞でヒュー・グラントなどの大物俳優をおさえ、史上最年少で主演男優賞を受賞。無名でも、最年少でも、実力さえあれば最高の舞台に立てると証明した。
彼らのように冤罪で悔しい思いをした人が他に何人も存在するのかもしれない。視聴後の私たちに問いを投げかけ続けるこのドラマをきっかけに、世間にはびこる差別や偏見について考えてみては。
『ボクらを見る目』
Netflixオリジナルシリーズ。独占配信中。
https://www.netflix.com/title/80200549
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事件当時の世相をズレなく再現する圧巻のクオリティ。
『英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件』映画での活躍がメインのヒュー・グラントが初主演したドラマシリーズとしても話題の『英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件』は、1960年代にイギリス自由党議員のジェレミー・ソープが巻き起こした性的不祥事を描くスキャンダルドラマ。同性愛者だったソープ議員をヒュー・グラントが、ソープ議員の過去の恋人ノーマン・スコットをベン・ウィショーが熱演。汚職と陰謀とセックスに溺れる当時のイギリス議会と、同性愛が法律で禁止されていた当時のイギリス社会を全3話で描く。
このドラマの魅力は、ソープ議員とノーマンのカリスマ性。由緒正しい家柄で育ち、オックスフォード大学卒業後に議員へ。趣味はバイオリンと乗馬というお金持ち街道まっしぐらで、高貴な英語を話すソープ議員は憎らしいけれど目が離せない。対するノーマンは、国民保険証を得るためだけに最後の最後までソープ議員をゆする青年。定職につかず、困ると薬に頼るイケメンダメ男ながら、中性的な魅力を放つ彼の側にはいつも誰かがいる……。上層階級とアングラ青年。まるで正反対な2人のダメ男を覗き見するのは、食後のデザートのように罪悪感を感じながらも甘くて癖になる。
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ジェレミー・ソープ議員の実際の様子を動画で何度も確認し役作りに取り組んだヒュー・グラント。
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ジェレミー・ソープの秘密の恋人ノーマンを演じたベン・ウィショーは、エミー賞、ゴールデン・グローブ賞にて助演男優賞を受賞。
/時代投影にこだわりをもつBBCが生み出した作品だけあって、60年代のイギリス情景の再現はお見事! 同性愛者への風当たりの強さや男性ファーストな社会情勢はもちろん、ファッションや街並み、車ひとつとっても一切のズレがないのはさすが。
エリート議員が一般男性の殺害をほのめかし逮捕、やむを得ず引退する衝撃の事件でありながらも、悲劇ではなく喜劇、ドラマではなく舞台のようなこのドラマ。イギリスを代表する名優2人の憂い漂う演技にも注目して。
『英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件』
一般レンタル中。
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