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注目のブックストアにおすすめの書籍をセレクトしてもらう連載企画【BOOK STORE RECOMMEND】。今回書籍のセレクトをお願いしたのは、個人書店ならではのユニークな選書が話題の田原町の書店「Readin’ Writin’ BOOK STORE」の店主・落合博さん。“長く読み継がれる本”という視点で選ばれ、店内に並ぶ書籍から、“人生観を変えるノンフィクション”をテーマに5冊をピックアップ。それぞれに個性あふれる他人の生き様に触れることで、“今の自分”を見つめ直すきっかけを探そう。
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『〈わたし〉を生きる――女たちの肖像』島崎今日子(著)(紀伊國屋書店)
“闘う女たち”の生き様を知る。
スタイリストの草分け的存在でクリエイターから熱い支持を受ける北村道子さん、女性による女性のためのセックスグッズショップを日本で初めて設立した北原みのりさん、高卒OLから巨大企業の会長にまでのぼりつめた林文子さん。悩みを抱え、もがきながら、さまざまな分野で先駆者・改革者として活躍してきた16人の女性を追いかけた『〈わたし〉を生きる――女たちの肖像』。雑誌AERAに掲載された連載企画を再編集し、単行本として書籍化。インタビューの名手として知られる著者による、各界を代表する女性たちの生き様を描いたノンフィクションは、私たちに“型や枠に縛られすぎず、自分らしく生きる勇気”を与えてくれる。
「錚々たる顔ぶれの女性たちがどのようにしてその地位に至ったのか、その歩みをとても丁寧に取材し、それぞれの人生に迫るノンフィクション。こんなに著名な人たちでも、世間の注目を集める場所にのぼり詰めるまでにいろんな紆余曲折があって、そのなかには当然失敗や挫折もある。それらがいろんな形で今に作用して今の彼女たちを作り上げていることを知ると、少々の失敗なんて大したことないよねって気持ちになれるはずです。
16人それぞれ皆、自分の芯を持っていて、それを貫き、やり続けることでその存在を極めていったんだと思いますが、この本を読むとそうなるための正解はひとつじゃないことがよくわかります。この本がいろんな事例を示してはくれますが、道を極めるルートは無数。どれをどんな風に選び取っていくか、決めるのは自分自身だ、ということも教えてくれる1冊です」
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『森瑤子の帽子』島﨑今日子(著)(幻冬社)
バブルを極めた女性作家の苦悩。
1978年に作家デビューすると瞬く間に人気作家への階段を駆け上がり、1993年に胃癌のため52歳で亡くなった作家・森瑤子さん。よき妻、よき母、よき主婦像に縛られながらも、バブルに沸く80年代を時代のアイコンとして全力で駆け抜けた彼女は、何のために書き続けたのか。結婚を機に専業主婦となったはずの女性が、文筆活動で成功を手にするに至った理由、そこから生まれた苦悩や孤独を忠実に描くノンフィクション作。
「バブルという時代とともに作家として開花し、セレブリティな生活を極めていった森瑤子さん。時代の寵児としてもてはやされた彼女は、数多くの作品を発表するなかで、どのような葛藤を抱えていたのか。本作では、華やかな生活を送るなかで感じていた娘たちとの不協和音や夫とのいざこざなど、内側に抱えていた問題が描かれています。注目は、彼女の長女と次女と三女がそれぞれ母親をどう見ていたかという3つのセクション。同じ母と娘という関係でも三者それぞれ微妙に視点や考えが違っているんです。
浮き彫りになるのは、作家・森瑤子として理想の存在であり続けることと、家庭内で良き母・良き妻であることの狭間で悩む彼女の姿。現代の女性たちには仕事と家庭の両立に悩む方が多くいますが、彼女が生きたのは30年以上前の世界。時代を経て注目されるようになった社会の問題を先取りして体験していた女性の生き様に、ハッとさせられるはずです」
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『ひみつの王国: 評伝 石井桃子』 尾崎真理子 (著) (新潮社)
児童文学の発展に捧げた101年を追う。
作家として翻訳者として編集者として、そのあふれる才能のすべてを日本の児童文学の発展に捧げた石井桃子。『ひみつの王国: 評伝 石井桃子』は、『ノンちゃん雲に乗る』や『クマのプーさん』など、手がけた作品の数々が今もなお多くの人を魅了している彼女の101年の生涯を追った評伝。周辺人物への丁寧な取材はもちろん、彼女自身へのロングインタビューや書簡も交え、手がけてきた仕事やその裏にある思い、さらには私生活までもを描き出す。
「うちでは絵本を多く取り扱っているんですが、絵本って決して子ども向けというわけではなく、大人が読んで面白い本もたくさんあるんです。その作り手において、日本の第一人者とも言える石井桃子さんが、どういう人生を歩んで、どんな思いを作品に込めたのか。彼女の手がけた作品って、おそらく誰もが1つは読んだことがあるくらいメジャーなものが揃っていて。それらの作品が出版に至った経緯や、彼女の作品に対する思いを知ることができる1冊です。
そもそも絵本や児童文学ってどういうものなのか、そういった視点もこの本には書かれています。石井さんは『子どもの頃に読んだ本は、大人になってからの人格や価値観に多分に影響する』とおっしゃっているんですが、大人になって読むからこそ見つかる視点もあると思うんです。この評伝を通して作り手の思いを感じたら、ぜひ昔読んだことのある絵本を改めて読み直してみてほしいです」
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『ジョルジュ・サンド 愛の食卓:19世紀ロマン派作家の軌跡』アトランさやか(著)(現代書館)
どんな時代もパワフルな女性は“食”が好き。
ショパンやミュッセなど多くの芸術家との恋愛、そして初期フェミニストとして著名な19世紀フランスの女性作家、ジョルジュ・サンド(1804-1876)。女性の権利から政治まで、さまざまな題材について数多くの作品を残した作家は、同じくらいエネルギッシュに“食”も愛していた。本書では、“食”という今までにない切り口でジョルジュ・サンドの人生を追う。
「彼女は恋多き女性という面が取り沙汰されがちですが、数多くの小説を手がけ、物書きとして大変活躍した人物。とはいえ、19世紀のフランスは、今の日本より格段に女性の社会進出が進んでいない世界。女性が文章を書くというだけでも珍しい時代に、男装をしたり、男性のペンネームを使ったりと、かなり奇抜な行動をしていた彼女。当然、男性側から偏見や攻撃も多かったんですが、彼女は自分を貫き通しました。
本書では、現代を生きる私たちに多くの気づきを与えてくれる彼女の言葉や思想を“食”という切り口で紹介します。彼女自身も作家活動の傍ら、料理をたくさん作っていたそうですし、彼女の作品には料理がたくさん登場します。この本では、その食風景を現代の生活に合わせたレシピで紹介しているんです。ただの評伝とはちょっと違うユニークな切り口を通して、19世紀のフランスにこんなエッジィな女性がいたということをぜひ知ってみてください」
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『70年目の恋文』大櫛ツチヱ(著)(悟空出版)
恋文を通して描かれる夫婦の愛。
93歳の妻から70年前に戦争で亡くなった27歳の夫へ。戦争で最愛の夫と引き裂かれ、それでも力強く戦後を生き抜いた大櫛大ツチヱさんが、亡き夫へ綴った手紙を編集した『70年目の恋文』。長い年月を経てなお募るまっすぐな思いを、情熱的な言葉でしたためた手紙からは、夫である仁九郎さんの優しく朗らかな人柄や短くも幸せな結婚生活の思い出がにじみ出る。
「年齢を重ねてなお、こんなにも情熱的な思いを言葉にできることに衝撃を受けました。93歳、それも夫とは70年以上前に死別しているのに、手紙からは若者がはつらつと恋を語るような感情の高ぶりを感じます。
手紙という形式を取りながら、この本から伝わってくるのはひとつの夫婦の形。お見合い結婚で出会った2人が、1年2ヶ月という短い時間でどのように信頼関係を深めていったのか。夫を亡くしたあと、再婚することもなく、夫の記憶が薄れることもなく、その愛情は失われないどころか、かえって純度を高めていっている。壮大な恋心を抱きつつ生きてきた女性の人生を伝えてくれる1冊です」
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<ABOUT Readin’ Writin’ BOOK STORE>
元新聞記者の店主・落合博さんが2017年に田原町にオープンしたブックストア。お店のモットーは、“長く読み継がれてきた本、読み継がれて欲しい本を手渡すこと”。落合さん自身が独自の視点でセレクトした約3,500冊が並ぶのは、倉庫をリノベーションしたという開放的な空間。きれいに整列して陳列される本もあれば、ランダムに横積みになった本も。店内の随所に、まだ見ぬ本との出会いを作る工夫が散りばめられている。本をきっかけに生まれるさまざまな“出会い”にも力を入れていて、元記者の経験を活かしたライティングのレッスン講座や著者を招いたトークイベントなども定期的に開催。読むことはもちろん、書いて、集って、出会える書店として要注目!
SHOP INFO
住所:東京都台東区寿2-4-7
TEL:03-6321-7798
営業時間:12:00〜18:00
定休日:月曜
http://readinwritin.net