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書店やブックカフェなど“本にまつわるスポット”におすすめの書籍をセレクトしてもらう連載企画【BOOK STORE RECOMMEND】。年末年始のスペシャル版は、休暇中にサクッと読めるよう、3つのテーマでそれぞれ3冊をピックアップ。
今回、本のセレクトをお願いしたのは、生活のなかに“本の置き場所”を提案しようという思いのもと、本棚を売る「HummingBird Bookshelf」の店主、柳下恭平さん。ラストとなる3回目にピックアップするのは、今年もどこにも旅行に行けなかった……というガールこそ読んでほしい3冊!
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『べつの言葉で』
子ども時代にはベンガル語と英語という2つのことばを使い分けて育った筆者が、大人になって出会った第3の言語は、イタリア語。その出会いから20年ほどの時を経て、彼女はそれまでの暮らしを離れ、ローマに移住。『べつの言葉で』は、初めての異国暮らしでの心情を、イタリア語と格闘しながら綴った作品。
「旅先で、“ここに行きたい!”、“あれが食べたい”という思いを、身振り手振りで伝えることができた経験ってありませんか? 本当に伝えたいことって、言葉が通じなくても伝わることが多い。逆にいうと、言葉が通じる相手でも話したくない人は話したくないし、言葉が通じなくても話したい人は話したい、ということだと思います。
このエッセイは、ベンガル語と英語、ふたつの母語を離れた女性が綴る日々のエッセイ。一見ツールとしての言語について考えているようで、この作品を読んでいるとその先にある言葉に頼らない“もっと根っこの部分でのコミュニケーション”について描いていることが伝わってきます。本の内容を象徴するような、何かの境界線をふわりとジャンプする女の子の姿をとらえた表紙の写真も、とても素敵。言葉という壁を飛び越え、何かを表現しようとする営みを感じてほしいです」
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『中二階』
スタイルの斬新さ、ユニークさが評判を呼び、刊行と同時にアメリカで大きな話題を呼んだ『中二階』。この本でニコルソン・ベイカーが描くのは、語り手の“私”が昼休みを終えてオフィス・ビルの中二階にある仕事場ヘエスカレーターで戻るまでの数十秒。日常のささいな出来事をこれでもかと詳しく考察し、200頁ほどの小説に仕上げた奇妙な物語。
「旅ってなんだろう、と思わせてくれる1冊です。この本で展開されるのは、ただある1日の昼休みに、エスカレーターをのぼっている数十秒の出来事。なのですが、そのわずかな時間をこれだけ微分し、1秒を無限に拡大することで、1冊の小説が書ける。遠くに行くことだけが旅じゃない、思考を巡らせることでどんな遠くにだって行けるんじゃないかと思えてきます。1冊読むと、日常の身の回りの出来事への見方が変わります。
細かい文字がびっしり並んでいるし、本文より脚注のほうが長いページもあるようなユニークな構成なので、読書体力としてはちょっと高めですが、岸本佐知子さんはこういう少し変わった文学を訳すのが本当にうまい。もし、読みきれなかったとしても“ただエスカレーターで1階から2階に行くだけのことが小説になるんだ”と知るだけで、この小説を手に取る意義がある。旅に行きたいけどどうしてもいけないとき、お守りがわりに1冊そばに置いておくといいかもしれません」
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『センチメンタルな旅 』
エロスとタナトス(生死感)という圧倒的なテーマから、世界のアートシーンを魅了し続けるアラーキーこと荒木義惟。彼が妻・陽子を被写体に据え、自身の新婚旅行を綴った写真集『センチメンタルな旅』は、写真集としてはもちろん、それから始まる彼の写真人生そのもの、そして人生観にもつながる1冊だ。
「この写真集は、人生を“私写真”に捧げる荒木さんが、一番身近な存在だった妻を観察し続けてきた記録ともいえる作品。初出は1971年で、当然まだSNSなんてなかった時代ですが、今でいうインスタグラムに載せるような感覚で撮影された写真が並びます。日常と地続きであるはずなのに、どこか感傷的な雰囲気の写真を眺めていると、日常の中にもこんなにもセンチメンタルな気分が潜んでいるんだ、と感じさせてくれます。
写真集って、その作り手の“コンテクスト”みたいなものが如実に現れるものだと思っていて。適当なところを開いてパラっと眺めるのではなく、頭から一枚一枚見ていくことで、彼の文脈を感じとってみてほしいです」
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<ABOUT HummingBird Bookshelf>
生活のなかに“本の置き場所”を提案しようという思いのもと、かもめブックス、梟書茶房、歌舞伎町ブックセンターなどで知られる校正の会社・鴎来堂が、新業態としてオープンした“本棚”を売るショップ。本棚そのものを柔軟に捉え、壁一面の大きな本棚からブックエンドやブックスタンドなど1冊の本のために使うものまで、その場を“本のある空間”にするアイテムを幅広く取り扱う。
テーマに基づいて書籍やマンガをセレクトし、本棚とセットにして提案するユニークな販売スタイルも魅力のひとつ。テーマから入ることで、自分では手に取らない新たな本に出会うチャンスが広がる!
SHOP INFO
住所:東京都中央区日本橋2−5−1 日本橋髙島屋S.C. 新館5階
TEL:03-5542-1916
営業時間:10:30~20:00
ウェブサイト:http://www.hummingbird-bookshelf.net/