発売されたばかりのキム・ゴードン著『GIRL IN A BAND キム・ゴードン自伝』を一気に読み終えたわたしは、いま大きく打ちひしがれ、放心し、まじでかーと思っているところ。美しいけれどどこか悲しい目をした女の子がカリフォルニアで子ども時代を過ごし、80年代のニューヨークのアートシーンを駆け抜け、ソニック・ユースというバンドを組んで、90年代グランジロックシーンにおける最重要メンバーのひとりとなるまでの話。いや、物語はそのもう少し先まで続き、彼女がボーイフレンドでありバンドメイトでもあったサーストン・ムーアと結婚し、一児をもうけ、30年近く生活を共にした末にムーアの浮気が原因で2011年に離婚したことについても正直につづられている。離婚のことは事実としてすでに知っていたつもりだったけれど、本人によって語られる当時の状況は、やはりリアルで衝撃に満ち、同時に言いようのない苦しさをおぼえるのはひょっとすると、こんなに非凡なカップルの関係がこんなに平凡な終わり方をするのか、という人生のどうにもならなさに対するわたしの落胆なのかもしれない。彼女たちの結婚生活が終了するのに伴い、予定されていた南米ツアーを最後にバンドも解散することになる。「ジ・エンド」というタイトルの章からこの本がはじまるのはそういう理由からだ。
キム・ゴードンはわたしにとって長い間、もちろん気になる人ではあったけれど、それよりもちょっと年上で音楽好きの友人たちが敬愛するカリスマミュージシャンという感じだった。あるいはアパレルブランド「X—GIRL」の創始者として、あるいはアートの文脈からも注目される才女として、ひいてはバカだと思われるかもしれないけれど、だいぶん大雑把な自分にとって彼女の名字はゴッド=神様さえも想像させた。そういうわけで、あのクールな外見もあいまって「畏れおおいゴッドねえちゃん」というイメージを、彼女に対してわたしは抱いてきたのだったが(まあそれもまるきり的外れな印象というわけでもないと思うけれど)、この本を通じて、彼女は言いたいことははっきり言うが、実際はとても思慮深く、傷つきやすく、慎重で、シャイな人なのだと思った。シーンの中心を駆け抜けてきた人物による刺激に満ちた時代の記述は、おもしろすぎてページをめくる手をつい急がせてしまうほど。今よりもずっと物騒でざわざわしていた頃のニューヨークの雰囲気がリアリティとともに伝わってくるのも楽しいです。
Illustration : aggiiiiiii
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aggiiiiiii(アギー)
兵庫県生まれ、東京在住。2007年よりオルタナティブカルチャージン『KAZAK』をはじめ、2013年にはソフィア・コッポラ監督『ブリングリング』のオフィシャルファンジンも手がけた。とりあえずなんでもDIYでやろうとする。旅行が好き。http://www.kazakmagazine.blogspot.jp