モデル、女優、そしてジェーン・バーキンの娘として、ファッション界からラブコールが絶えないルー・ドワイヨン。近年ではフランス版のグラミー賞で最優秀女性アーティスト賞に輝くなど、シンガーとしてもその非凡な才能を開花させている彼女が、このたび3年ぶりとなるニューアルバムをひっさげ来日! ブルーノートでのライブ前日に、作品の制作秘話から、気になるファッションの話題まで、たっぷりと語ってくれた。
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昨年末にリリースされたルー・ドワイヨンの2ndアルバム『Lay Low』。本作はデビュー作とは違い、楽曲制作はもちろん、レコーディングや編集、ミックス、マスタリングに至るまで、彼女自身の舵取りによって行った極めて私的な作品だ。プロデュースは以前から興味を持っていた、カナダのインディペントレーベルに所属するバンド、ティンバー・ティンバーのテイラー・カークに依頼。一度はオファーを断られたが、なんとか時間を作ってもらうことに成功し、制作に漕ぎ着けたという。
「1作目がありがたいことにフランスで賞をもらったんだけど、その状況があまりにも居心地が良すぎて、冒険好きな私は逃げたくなってしまって……。だから2作目は怖さもあったけど、自分自身ですべてやると決めて。ギター1本と着替えだけを持って、テイラーが住むカナダを目指したの」。雪に閉ざされたモントリオールのスタジオにひとりで向かった彼女は、メンバーと5日間にわたり蜜なレコーディングを行い、その後も現地とフランスを行き来しながら、最終的に自身の手でアルバムを仕上げた。「ひとりでやらなきゃいけない孤独、不安も含めて今作ではさまざまなことを学んだわ。機械に頼らずリアルに音を作っていく過程を通して、私はパーフェクトじゃないものが好きだし、ミスも好きで、そして静寂を心から愛していることも再確認できた。それがとても良い経験だったと思ってる」
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『Lay Low』Rambling RECORDS
ひとつずつ時間をかけて生み出されたダークでフォーキーなサウンドは、彼女が綴る叙情的な歌詞、そしてスモーキーな歌声と相まって、独特の音世界を作り出すことに成功。聴き手の心に静かに染み入ってくる、珠玉のアルバムとして世に放たれた。出来上がってしばらくは冷静に聴き直すことができなかったというルーだが、リリース前にはボーイフレンドや母親のジェーン・バーキンにも聴いてもらい、皆にいいねと言ってもらいホッと胸をなで下ろしたという。また本作は顔半分が髪の毛で隠れた彼女の印象的なジャケットも魅力のひとつだが、これは寝起きざまに携帯電話で撮影したというセルフィーカット(写真上)。
「すっぴんだし笑顔でもないんだけど、友人のフォトグラファーに見せたら“それこそ君らしい”と言ってくれたので採用したの。私は自分の髪の毛に特別な思い入れがあって。なぜならそこに何か無意識な自分が表れているような気がするから。そういった意味では、この写真からも“私以外の何者でもない”というメッセージが伝わってるんじゃないかしら」
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モントリオールのスタジオ「Hotel2Tango」にて撮影。ⓒZélie Noreda
スタイルアイコンとしても常に熱い視線を浴びているルー、やはり気になるのがそのファッション。2016年1月の来日ライブでは、煌びやかなテーラードジャケットにシフォンのブラウス、黒いスキニーパンツで登場し、そのセンスの高さを伺わせたが、衣装を選ぶ上でのこだわりはあるのだろうか?「個人的に好きなのは70年代のファッション。ただガーリーに仕上げてしまうとママに似すぎてパロディになってしまうから、ジミー・ペイジとかジム・モリスンのスタイルを参考にして、なるべくマニッシュに見えるように心がけたり。クレイジーなデザインも好きで、過去にはキース・リチャーズが着ていたグリーンのパンツそっくりのものを作って着たこともあったけど、私の音楽性とはかけ離れていることに気づいて、泣く泣く手放したこともあったわ(笑)。結果、今はTシャツにジーンズとか、素の自分に近い格好に落ち着いたかな」
最後に、気になる日本滞在中の過ごし方を尋ねたところ「渋谷でヴィンテージのコートと、イラストを描くためのペンと画用紙、そして歌舞伎のフェイスパックを購入したりしたわ。これから大好きな着物(彼女はガウン代わりに愛用)も探さなきゃいけないし、キディランドにも行きたい」と楽しそうに語ってくれた。こうしたフレンドリーで飾らない雰囲気も、彼女が人を引きつけてやまない大きな魅力のひとつだ。プライベートでは13年に義姉、ケイト・バリーを亡くし、つらい時期もあったと想像されるが、その喪失感を糧に、さらにストイックに自己表現を追求する彼女。そこには“ジェーン・バーキンとジャック・ドワイヨンの娘”という、華々しいルーツを忘れさせてしまうくらいの、ひとりのミュージシャンとしての強い矜持があるだけだ。