サステナブルなものづくりとラグジュアリーな使い心地で世界のファッショニスタからも注目を集める、パリ発ブランド「ラ ブーシュ ルージュ」。生産過程から店舗までプラスティックを一切使用しないというビューティ業界初の取り組みを実践しつつ、洗練されたパッケージから美しい発色までクオリティにも並々ならぬこだわりが。来日したブランド創立者、ニコラス・ジェルリエさんに話を伺いました。
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フランスのブルターニュ地方出身。「小さい頃から海に親しんでいたので、プラスティックによる海洋汚染について知ってから、自然にこの問題に対処しなくてはと思うようになりました。」
年間に廃棄されているリップスティックは10億本!?
ビューティ業界はどのように環境汚染に影響しているのでしょうか?
プラスティックゴミの排出が多いのは、1番に車産業、その次にファッション、そして3番目はビューティです。例えば、毎年10億ものリップスティックが捨てられていますが、ケースの多くはプラスティックでできていますから、リップスティックだけでも大量のプラスティックゴミが出ているということです。 -
「ラ ブーシュ ルージュ」は伊勢丹新宿店に店舗を構え、明るいレッドからニュアンスベージュまで美しい発色がそろう。テクスチャーはマットとサテンの2種。カラー リフィル ¥4,600
プラスティックと言えば、“マイクロプラスティック”というワードも最近よく聞きます。
そうですね。マイクロプラスティックとは目に見えない小さなプラスティックのことを指しますが、プラスティックゴミが海洋に漂いながら細かく分解されることで発生し、今や海洋だけでなく、飲料水を汚染したり、空気中に舞っています。私たちは毎週5gものマイクロプラスティックを食べているという調査結果もあります。5gというのは、クレジットカードと同じ重さなので、私たちは毎週カード1枚を食べているようなものなのです。リップスティックにはのびつやを高めるためにマイクロプラスティックが使用されることもあるのですが、知らず知らず体内に取り入れてしまうことで健康への影響が懸念されています。 -
クラフトマンシップを感じる、何年も使うことのできるレザーのケース。アルファベットの刻印が可能。ケース ¥13,500、刻印サービス ¥800
ラグジュアリーとは「使う喜び」と「誇り」も与えてくれるもの。
ビューティ業界にもともと興味があったのですか?
いいえ、アートの分野でキャリアをスタートしましたが、デザイン、カラー、イノベーション、クリエイティビティが統合されたビューティに興味を持ちました。10年以上の大手化粧品会社での経験をもとに独立して自分のブランド「ラ ブーシュ ルージュ」を立ち上げたときは、ただ新しい商品を開発するだけでなく、新しいラグジュアリービューティのあり方、徹底したサステナビリティを提示したいと考えました。ラグジュアリーとサステナビリティが両立させるのが今の時代大切なのですね。
そうですね、私たちの世代は未来に責任ある行動を取ることが求められていますから。もし、何かラグジュアリーなものを買えるのであれば、社会的に責任あるものを買うべきだと思います。塗り心地や発色など、クオリティが最上級で、かつサステナブルであることが両立しなくてはいけません。ラグジュアリーとは、持っている人が“誇りに思える”ものであり、社会的な “責任あるもの”であるべきだと信じています。 -
PHOTO BY INSTAGRAM /@laboucherougeparis/使い終わったらリフィルを交換するだけ。金属製の型にレザーを張ったラグジュアリーなパッケージも魅力。
研究に後押しされた、プラスチックフリーのイノベーション。
このリップスティック、食べられるって本当ですか?
本当です。全ての成分は植物性由来で作られ、マイクロプラスティックはもちろん、蜜蝋や動物性脂肪も排除し、口に入っても安全で安心な成分しか使っていません。自分たちの研究所を1から立ち上げて開発したフォーミュラで、これはリップスティックではなく、リップ“セラム”、美容液でできているんです。なので使うたびに唇も美しくなっていきます。レザーのケースは、パチンと蓋を閉めるマグネットの感覚がやみつきになります(笑)。
レザーが貼られた重厚感のあるケースは金属でできていて、中のレフィルを自由に入れ替えることができます。リップをマグネットでパチンと閉める仕草は、新しい女性のジェスチャーになるかもしれませんね(笑)。ヴィーガンレザーやアップサイクルのレザーケースも限定で発売しているんですよ。また、プロダクトやフォーミュラ以外にも、配慮すべき点はたくさん。店頭の什器なども金属や大理石を使いプラスティックは一切使用せず、ギフトパッケージも同様です。 -
PHOTO BY INSTAGRAM /@laboucherougeparis/1950年代に「クリスチャン・ディオール」で使われていた金属製の型を使用。昔ながらの製法に立ち返るものづくりを。
リップスティックにはロゴの刻印がありませんね。
ロゴを刻印するために、シリコンの型が使い捨てられていますが、3つのリップスティックにつき1つのシリコンが使われているので、毎年10億ものリップスティックが捨てられるということは、同時に3億ものシリコン型が捨てられているということです。「ラ ブーシュ ルージュ」ではブランドロゴをあえて刻印しないことが、ブランドアイデンティティにつながっています。一貫してプラスティックを排除しているんですね。
デザインからブティック、フォーミュラまでにこだわるのは、革命的なことだと思っています。マーケティング戦略に基づいた嘘や建前が多いこの時代に、本物であろうと努力しています。きっとパーフェクトではありませんが、本物で、透明化されていることが大切だと感じています。 -
「日本人とフランス人は、人々の嗜好や美学が似ていると思います。私は東京という街がとても好きで、細かいディテールだったり人々の家だったり、すべてがマジカルに映ります。」
新しい美、クリーンな美へのマニフェスト。
「ラ ブーシュ ルージュ」はフランス語で“赤い口”。そこに込めた想いは?
「ラ ブーシュ ルージュ」とは赤い口、赤い表明という意味です。美しく、スマートな“ラ ブーシュ ルージュ(赤い表明)”を誰もが持って欲しいと思っています。新しい美、クリーンな美への宣言を、リップスティックを使って世界に広めることが私の使命です。1人で大きな改革を起こすことは難しいですが、すべてのハンドバッグにリップスティックが入っていますから、その小さな力を組み合わせれば大きなことが成し遂げられると信じています。リップで自身の想いを体現した今、次なる野望は?
はい、実はマスカラの開発をしているところです。パッケージからブラシ、中身にまでプラスティックが使われているアイテムですから、世界にインパクトを与えられると思います。 -
PHOTO BY INSTAGRAM /@laboucherougeparis/「ビューティにはもう、プラスティックはいらない。」
VOGUE GIRL読者にメッセージをお願いします。
現在、日本は世界で2番目にプラスティックごみを排出しています。ですが、感性が高く伝統やクラフトマンシップが大切にする日本だからこそ、すぐにサステナビリティを理解し賛同してくれると思います。「ラ ブーシュ ルージュ」のリップは、リップスティックを使う喜びを与えてくれるのと同時に、世界を変えるためのファーストステップになってくれます。リップスティックを使うことで、人々に気づきを与え、プラスティックを使わずにクールな消費ができる、というアイデアを広げたいです。アート、ビューティ、ファッションという分野でそういった動きがもっと活発になることで良い未来が開けると思います。