9、10月のVOGUE GIRLのビッグテーマは「LOVE」。純愛、偏愛、家族愛、ペット愛、人間愛…。 “愛”について、と聞いて思い浮かべる本をエディターたちがピックアップ!
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『愛という名の支配』田嶋陽子(著)(新潮文庫)
「私」のための、フェミニズムを見つけよう。
VOGUE GIRLのエディターは僕以外はみな女性です。年齢も20代、30代とさまざまで、そんなスタッフと一緒に働く毎日が本当に楽しい。だからこそ、女性の権利や生き方については敏感でなければいけないと思っています。
そんな僕が女性と働くために一つの指標としているのが、田嶋陽子さんの『愛という名の支配』という本です。90年代、TVを中心に活躍し、声を大にして女性の権利向上を訴えていた田嶋さん。「男はパンツを(自分で洗え)、女はパンを(稼ぐ力を身につける)」のメッセージは、強烈なインパクトとともに、彼女が考える男女の関係や社会のあり方をわかりやすく伝えています。
この本には、田嶋さんがどのようにして“フェミニズム”を手に入れたかを、母親との確執をはじめとした自身の体験をもとに書かれています。さまざまに傷ついてきたことを正直に(わかりやすく)語られている内容は、程度の差はあれ多くの女性が経験してきことや感じてきたことであり、ページをめくれば共感できることがいくつもあるのではないでしょうか。
『“「私」がフェミニズムを生きる”のではなく、「私」を生きるにあたって、役に立つからフェミニズムを使っているのです。私のフェミニズムは、私のフェミニズムです。そう、田嶋陽子のフェミニズムでしかありません』
文中での田嶋さんの言葉には、権利や思想が議題になる際についつい置いていかれがちな「心」(「私」)がキチンとある。小難しくなく、自身の体験をもとに切り開いてきた「田嶋陽子のフェミニズム」は、「自分らしく生きたい」というシンプルだけど力強い思いにあふれています。今年の6月、VOGUE JAPANの企画で、田嶋さんに取材する機会に恵まれました。実際にお会いした田嶋さん、79歳になった今も情熱的であたたかく、本当に素敵な方でした。取材後もスタッフ全員に「ありがとうね!」と明るく声をかける心遣い。「やっぱり、女だ、男だ、と区別して差別されるよりも、人間は人間になりたいし、どんな道を通ったって、人間になるように努力するのが私たちの性だと思う」。インタビューで語ってくれた印象的な言葉どおり、人間を生きていらっしゃる、そんな印象でした。
生き方も多様化の時代、「女性らしさ」の押し付けに窮屈さを感じている女性だけでなく「男性らしさ」の強制に生きづらさを感じている男性にとっても、人間が一番愛すべき「自分」とは何かを考えるヒントを与えてくれる本だと思います。(VOGUE GIRL副編集長 荒井 現)
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『おおきな木』シェル・シルヴァスタイン(著)(あすなろ書房)
何度も繰り返し読みたい。おおきな木の物語。
木から少年への無償の愛が描かれた、ベストセラーの絵本『おおきな木』。少年が欲しがり、木は自分の実や枝、幹などを与えていくのですが、こどもの頃に読んだときは、木から少年がすべてを奪ってしまったように思えて、木が可哀想、何て残酷な絵本だと好きになれませんでした。でも、改めて読んでみて、木が与える無性の愛に気がつき見方が変わりました。惜しみなく与えることで感じる幸せ。そんな幸せを生きている木はシンプルで尊いなと思います。
こちらは村上春樹さんが翻訳したバージョンで、あとがきで「物語は人の心を写す自然の鏡のようなもの」と述べています。自分の中の木、自分の中の少年。人生の節々で開くたび、おおきな木の物語が変わり、ひとりひとりの特別なストーリーができあがるはずです。(VOGUE GIRL エディター 蔵澄 千賀子)
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『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ(著)(早川書房)
生きていることは、愛すること。本質を教えてくれる衝撃作。
ノーベル賞作家のカズオ・イシグロの代表作品『わたしを離さないで』は、小説、映画ともに心に残っている作品です。主人公たちは臓器を提供するために造られたクローン人間たち。SF映画のような聞こえかもしれませんが、決して未来的な話ではなく、30年前くらいのイギリスの田舎町が舞台となっていて、ノンフィクションかのような錯覚をしてしまうくらい現実にも起こりうる小説という点で衝撃的だし、記憶に深く刻まれます。見た目も人間の若者そのものなのに、登場人物たちは、現代社会のエゴを叶えるために自らを犠牲にする、報われない宿命にある男女たちが、限られた寿命の人生のなか、なんとか「愛」に希望を見出し、救いを求めるという胸を引きちぎられるようなストーリーです。何度も読み返しながら、ちょっとずつ理解を深めていくような作品で、人間にとって「生きること」と「愛すること」が表裏一体であること教えてくれます。(VOGUE GIRL エディター 諸岡 由紀子)
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『幸福な食卓』瀬尾まいこ(著)(講談社)
家族への愛を再確認。
「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」という突拍子もない言葉からはじまるこの小説は、映画化もされているのでセリフに聞き覚えがある人もいるかもしれません。それぞれの悩みや葛藤を抱えながら、再生していく家族の姿を描いている物語です。
いつもあまりにも近くにいる分、ついつい優先順位は低くなりがちで、後回しになってしまうことがある家族への愛を、この物語で再確認することができます。自分では気がつかないところで、見守ってくれていて、愛で包んでいてくれる。その存在は家族だけではないかもしれませんが、見返りのない愛を無条件でくれる存在、与えられる存在、その第1位は私の中ではやっぱり家族なのかもしれない、と読み進めていきながら考えていました。そして、そう思わせてくれる、著者の瀬尾まいこさんの愛に溢れた言葉にもパワーを感じてほしいです。控えめながらもまっすぐに届く文章は、中学校で国語の教師している著者だからこそ。温かいものに包まれている、そんな気持ちのいい余韻が残ります。(VOGUE GIRL ジュニア・エディター 米倉 沙矢)
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『ずーっと ずっと だいすきだよ』ハンス・ウィルヘルム(著)(評論社)
愛をまっすぐに伝えることの大切さ。
出会いは小学生の頃。教科書にこの話が掲載されていて、“ぼく”と愛犬エルフィーの別れを描いたストーリーに心打たれたのを覚えています。このストーリーが頭の片隅にあったからか、私も実家で犬と暮らしていた頃には、“ぼく”と同じように毎晩寝る前に「大好き」を伝えることをルーティンにしていました。昨年愛犬との死別を経験し、最期に別れを言えなかったことを悔やんでいたのですが、ちゃんと愛を伝えられていたという事実にいくらか救われた気がします。
大人になった今、絵本を読み返してみると、“ぼく”の「すきなら、すきといってやればよかったのに」「いわなくっても、わかるとおもっていたんだね」という言葉がグサグサ刺さる…! 動物だけでなく人との関係においても、いつかは別れのときが来るもの。身近な存在にほど「大好き」や「ありがとう」を照れくさくて伝えられなかったりするけれど、まっすぐ愛や感謝を伝えることが大切なのだと改めて気づかされる絵本。大人にこそ、読んでほしい1冊です。(VOGUE GIRL ジュニア・エディター 高山 莉沙)
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『愛を、まぬがれることはどうやらできないみたいだ。』きくちゆみこ(著)
「愛を、まぬがれることはどうやらできないみたいだ。」
何年か前の東京アートブックフェアで出合ったきくちゆみこさんの作品。なんて素敵な一文なんだろうと思ってそのときご本人から購入しました。過去に書いてきた日記やブログ、ツイッターやメールの断片をまとめた1冊ということで、オンちゃんというお子さんの話をしているページのすぐあとに、10年以上前の留学中の話が出てきたりとタイムスリップをしているような不思議な構成。時間が前後していても違和感なく読めるのは、人って芯の部分は時間を経ても変わらないからなのかも、と思ったりします。あたたかで繊細な彼女の心に入り込んだよう感覚で、過去の恋人についての一節や仲良くしていた友達との思い出話、好きな映画などについて知っていくと、そのときそのときに存在していた小さな愛に触れている気がします。
愛、というととても大きな言葉に思えるけど、目の前にある窓からこぼれるやさしい光や、友人や家族に日常的に感じる愛情、昔のことを思い出して心の奥が動く感覚など全部ひっくるめて、きくちゆみこさんのこのタイトルで言う愛なのかもしれないと思います。そういうひそやかで、少し眩しくて、やさしい、“愛”を感じる感覚をいつまでも忘れないようにしたいです。(VOGUE GIRL アシスタント・エディター 塚原 由香理)
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『25年後のセックス・アンド・ザ・シティ』キャンディス・ブシュネル(著)(大和書房)
「セックス・アンド・ザ・シティ」のその後とは?
HBOドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)」はいつの時代も若者の恋愛バイブル的存在。私ももちろん、ドラマから映画まで全て鑑賞するなど同シリーズの大ファン。そんなSATCファンに朗報! 今年6月に「SATC」のその後を描いた単行本が日本にも上陸。50代後半に突入したSATC原作者のキャンディス・ブシュネルとその友人たちが、離婚や中年特有のクライシスを乗り越えながらもう一度、愛をゲットするために奮闘するというストーリー。マンハッタンや架空の街“ヴィレッジ”を舞台に、マッチングアプリや女子力磨きに精を出す様子や深い人生論が綴られていて、恋愛と人生に関する教訓がぎゅっと詰まっています。
普段あまり読書をしない人でも気楽にサクサクと読むことができるのもおすすめポイント。イラストレーターのitabamoeさんが手がけた表紙も最高にかっこいい! これから年を重ねていくのが楽しみになる、そんな希望を与えてくれる1冊です。 (VOGUE GIRL アシスタント・エディター 田中 莉子)