今、新型コロナウイルスの感染が世界で広がる中、少しも不安を感じないという人はいないはず。ウイルスそのものに関する心配だけでなく、国の対策、仕事や金銭的な状況、学校の休校など、まだ終わりが見えない点が多く、不安は募るばかり。
すでに多くの人が「まだなんとか対応できる」感覚から「PLEASE HELP ME(お願い、誰か助けて!)」というレベルのコロナ疲れを感じているはず。未曾有の危機の状況下で不安を取り除くのは簡単なことではないけれど、今の自分の精神状態と、気分を良くするもの、悪くするものを把握すること、そして自分で対処できない場合はプロの力に頼ることが大切。
コロナ疲れや、コロナ鬱を感じている人は、心理学や流行疫学のエキスパートに聞いた、10のアドバイスを参考にしてみて。
-
1. 既存のストレスチェック診断に現状を当てはめない。
ストレスをテーマにした記事の多くは、「まず初めに、これらの項目にいくつ以上該当したら危険信号」といったチェックシートからスタートすることが多い。結果次第で、第三者に相談するべきか、もしくはプロの助けを求めるべきかの参考にすることも。ただし、今回の新型コロナウィルスがもたらすストレスについては、一般的なチェック項目を使うことでより混乱を招きかねないのでご注意を。
一般的に、不安やストレスが病的になってきているかを判断する際に専門家がチェックするのは、仕事や学校に行くのに支障をきたしていないか? 社会との関わりを閉ざしていないか? いつもなら好きなことを避けていないか?といったように、あなたの日々の生活にストレスが大きな影響を与えているかどうか。でも今は、不安の源である新型コロナウイルスそのものが私たちの生活を脅かしているので、こういった判断材料が意味を持たない。
「現在起きている状況はとても複雑で不確かなことも多いので、心配になってしまうのは当然のことです」(バルーク・フィスコフ医師 / 心理学者・カーネギーメロン大学教授)
かなりの速さで状況が変化していて、専門家でもまだはっきりとしたことがわかっていない中、「心配し過ぎなのか、これくらいは当然なのか」という質問に答えるのは実に難しい。強迫神経症と不安症を専門とする心理学者、ジェニー・イップ医師は「コロナウイルスはまさに今実際に起きていることなので、不安を感じてしまうのも当たり前のことかもしれません」という。
ストレスフルな毎日が続く今、コロナ不安が日々の生活に与えている影響よりも、自分を思いやる力が衰えてきていないかどうかに注意を払う方が大切。まずは以下のアドバイスを参考にして自分の心を労ってあげて。それが難しい人は、プロの力を借りることを優先して。
-
2. 新型コロナウイルスの最新情報入手先を絞る。
四六時中ツイッターやありとあらゆるニュースチャンネルをチェックする必要性を感じている人は要注意。常に舞い込んでくる新しい情報を追うことは、適切な視点を保つ、という点では良いけれど、常にアンテナをはっていることは不安材料を増やすだけになりかねない。
「過度なメディア報道、特に何度も繰り返すものは心理的苦痛を生みがちであるというリサーチ結果が出ています。新型コロナについてはどこのメディアも限られた情報しか持っていないので、報道も同じ内容の繰り返しになってしまいます」(ダナ・ローズ・ガーフィン医師 / スー&ビルグロス看護学校助教授)
オススメは、情報の入手先を限定すること。信頼性のある情報源だけからアップデートを入手して、他は見ない。WHO、厚生労働省、住んでいる区市町村のホームページなどで最新の数字や医療情報が確認できる。
-
3. 最新情報の入手方法や量を管理する。
ほとんどの人が仕事でインターネットを使用している今、ニュースを1つだけチェックしようと思っても、次から次へと記事を読んでしまうこともしばしば。そこで、新聞社などから毎朝届くデジタルニュースレターに登録したり、ツイッターはリストを作成して必要な専門家やレポーターのアカウントだけをチェックできるようにしたり、最新情報の入手方法を制限すると、他の時間は別のことを考えられるようになる。
さらに、”新型コロナのニュースをチェックするのはランチ休憩の時だけ”、”寝る前には見ない”、”ツイッターの通知をオフにする”、といったルールを設定すると、次から次へと耳へ流れ込んできてしまうニュースも、自分のペースで入手できるように。
-
4. 自分でコントロールできることに目を向ける。
「不安というのは疑問や不確実性が高いほど広がります。新型コロナはまさに疑問と不確実性のかたまりで避けるのは難しい。そこで、できないことよりもできることにフォーカスすることが重要」(イップ医師)
幸いなことに、私たちが今できることは少なからずある。厚生労働省が啓発している新型コロナウイルス感染症の予防方法の他にも、非常用キットの準備や非常時のプラン作成など、「今できること」にフォーカスして。
「非常時の準備は冷静な視点で行いましょう。“世界の終わりがすぐそこに来ている!” とパニックを起こしながら缶詰フードのストックを過度に増やすのではなく、”パンデミックや災害が起きた時のために、備えあれば憂いなし”と落ち着いて行えばストレスも軽減されます」(ガーフィン医師)
不安障害を抱えている人は通常、不合理な不安や恐怖を受け入れてしまわないようにセラピーなどに通う。現在のコロナ不安は正当で理にかなっているので受け入れても大丈夫、と言われてもびっくりするかもしれない。
「自分を大切に、感染予防のために推奨されていることに従いましょう。非常時の準備を過度にしてしまったとしても、不安障害の症状が出てしまった、などと気にする必要はまったくありません」(イップ医師)
-
5.コロナ不安に常に対処する必要はナシ。
実際に準備をするのは良いこと。でも、マインドフルネス(今起きていることに気を配る状態)も同じくらい大切。感染予防のアドバイスに従っているのであれば、それ以上の必要はナシ。
「自分が恐怖・不安を感じていること、それらが普段の行動と気持ちにどう影響を与えているかを認識していることが大切。すべての不安をその場で解消・解決しないといけないわけではないので、焦らずに。そう感じる自分を受け入れるところからはじめましょう。」(スザンヌ・マウトン・オドゥム医師・心理学者)
ただし、不安によって無気力になってしまったら注意を。例えばいつも以上に不安を感じて、食料品の買い出しにさえ行く気が起きないとしたら…? まずは冷静に状況を分析し、必要以上に不安になっていないかを確認しましょう。
「自分の地域で感染は起きている?自粛勧告は解除された?事実を確認せずに勝手に危険だと予測して家にこもってしまうのではなく、恐怖を理性に照らし合わせなければならない時です」(オドゥム医師)
不安は孤立と活動のスロー化を促進させてしまいがち。一般的に孤立は精神面に悪いだけでなく、時間があればあるほど強迫観念が強くなり、事実以上にリアルな恐怖心を生んでしまう。
「すべてに警戒しすぎると、危険が隅々にまで潜んでいると考えるようになってしまいます」(ジョン・アブラモーウィッツ医師 / ノースキャロライナ大学臨床心理士)
-
6. 心配事を15分間、思いっきり書き出す。
イップ医師は「コロナ鬱を感じる人には “15分間心配事を書き出す時間” を持つこと」も勧めているそう。心の中に抱えている恐怖心を外に出すことで、明確に把握することが目的。実施の際には以下2つのルールを守って。1つ目は、心配事を反芻させて書くのではなく、言い切り型の陳述として書く。反芻の場合は、堂々巡りのスパイラルに陥るだけに対して、陳述はその時の感情よりも結論へと導いてくれるから。
陳述の例:
-「コロナウイルスへの感染が心配だ」
-「感染した場合には死ぬかもしれない」
-「死んでしまったら家族が悲しんでしまう」反芻の例:
「感染したらとても具合が悪くなって家族も感染させてしまい、みんな一緒に死ぬかもしれない。そんな最悪な結果になりたくない…だから感染したくない。でも防ぎようがなく自分が感染して家族に移ったら…」2つ目は、15分きっちり使うこと。もし心配事が足りない場合は、同じことを何度も繰り返して書く。1日のうちにこの15分間セッションを複数回やっても良いとのこと。
「飽きるまで同じことを繰り返すのがポイントです。いずれ頭が疲れて、恐怖心から距離を置き、感情にがっつりと固定されてしまっていた心ではなく、現実に基づいた異なる見方をすることができるようになります」(イップ医師)
-
7. 瞑想アプリやポッドキャストで心を落ち着かせる。
今まで瞑想を生活に取り入れたことがなかった人はこの機会にトライ。初心者はアプリを使うのがオススメ。この時期は無料で聞くことのできるプログラムも多くアップされている。眠りにつく前、1日がスタートする朝など、心を落ち着かせたい時に活用してみよう。
-
8. 人との関わりを絶たない。
不安は孤立の中に生まれるため、社会との関わりをキープするためにできることをするのが大切。そのためには工夫する必要もあるかもしれない。在宅ワークで人との関わりがなくなり、狭い空間で生活することで情緒不安定に陥るのも時間の問題。そんな時は同じ境遇にいる友だちや仲間に電話をして気持ちを分かち合うことで一緒に孤独感を打ち破ることができる。
ビデオチャットツールを利用したり、外食をする代わりに友だちと料理をしたり(※安全なシチュエーションに限る)、今まで以上に人との関わりを持つことに注力して。
-
9. ベストを尽くしていると、自分を労う。
前述の通り、不安は不確かなことが多いほど増殖する。今の状況がまさにそう。旅行はやめるべき? 地下鉄は避けるべき? ジムは安全?など、質問は挙げたらキリがないし、答えも確かなものは出てこない。推奨されているアドバイスに従うしかない。この厳しい状況にできるベストなことは、プレッシャーをできるだけ払拭すること。新型コロナを避けるために “正しい判断” をしようと無我夢中になり、”誤った判断” をしてしまったらどんな恐ろしいことが起きてしまうのかを心配してしまうけれど、正直なところ、私たちがコントロールできるレベルを超えてしまっているのが事実。
「一般的に、人は皆思慮深く、慎重で、正しいことをしようと心がけます。ただ、私たちが感化されやすい2つの偏った考え(バイアス)があることを忘れてはなりません。1つは、私たちが決断の質をジャッジする際、どれだけ思慮深く決断されたかではなく、物事が結果(アウトカム)がどうなったかでジャッジする “アウトカムバイアス” 。そしてもう1つが、予測することは不可能だった結果を、予測できる能力があったと過信する ”ハインドサイトバイアス” です。新型コロナについて新しい情報が明らかになってくると、『あのとき、あれをする代わりにこれをすれば良かった』と思うこともあるでしょう。誤った選択をしないように、また後悔しないように、私たちは、余計に不安を感じてしまうのです。しかし、この2つのバイアスをどちらもなくすことは恐らくできません。今やれることをやって、思慮深い決断をしているのであれば、十分最善を尽くしているのです。結果、物事が悪い方向で進んでしまったとしても、後悔や自分を非難はしないようにしましょう」(フィスコフ医師)
-
10. 専門家に助けを借りる。
もしもコロナ疲れや鬱を感じて誰かに話を聞いてもらいたい場合は、これまでのアドバイスを一切気にせず、躊躇なくセラピストや専門家に相談するように。行動自粛が要請されている現在、実際に足を運ぶことは難しいかもしれないけれど、オンラインや電話での相談を受け付けているセンターもあるので気軽に問い合わせてみて。
そして何よりも、自分に優しくしよう。特に今の時期は不安や恐怖と向き合うのは簡単ではないけれど、あなたは一人ではないということを忘れず、今できる最善を尽くす、それだけで十分だと言い聞かせよう。