私たちの身体のパーツで、他の人、モノ、もしくは自分自身と触れ合っていることがダントツ多いのが手。1日のうちに無意識で自分の顔を手で触っている回数なんて数えきれないほど多いはず。身体の衛生状態を保つことは多くの人にとって常識的なことだけれど、特に今この時期にもっとも注目されているのは、菌を拡散させないために手を清潔にすること。
いつもアルコール除菌液を持ち歩いている人、もしくは石鹸で手をよく洗っている人、どちらにしても何もしていないよりはずっとウイルスとバクテリアの感染を制限できているのは確か。では実際のところ、アルコール除菌液と手洗いではどちらがより効果的なの? この疑問を解決するべく、エキスパートに話を聞いてみよう!
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アルコール除菌液の良い点、悪い点
バッグやポケットの中にさっと入れたりキーホルダーに付けたり、その使いやすさから日用アイテムの常連となったアルコール除菌液。
「アルコール除菌液は出かける時に手軽に持ち運びができるので、手を消毒する回数が増えてウイルスの感染予防を助けます」(サウスキャロライナ大学 ニーハ・ナンダ医療ディレクター)
ニューヨークで活躍する消化器内科専門医のニケット・ソンパル医師も、アルコール除菌液の利便性を認め、「水と石鹸がない場合に菌を防ぐ効果はあり、多くの病原菌やウイルス、バクテリアに効きます」とはしているものの、残念ながらすべてのウイルスに効くわけではない、とも加えている。
「ある特定のタイプの下痢を引き起こすノロウイルスには効き目がありません。また、抗生物質の使いすぎによって引き起こされる下痢の原因となる、クロストリジウム・ディフィシルと呼ばれるバクテリアの防止もできません」(内科専門医リンダ・アネガワ医師)
というわけで、アルコール除菌液は使いやすいことは確かだけれど、完璧な予防策ではないということが判明。ペンシルバニア大学病院のアサナシオス・メリシオティス医師は、商品によっては使用後に手に不快感が残る点や、石鹸よりも高価な点を挙げ、外出時などをのぞいては石鹸と水の方が明らかに良いとしている。
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ではなぜ医師は手洗いの方が良いとするの?
アルコール除菌液の大きなボトルを置いているお店やオフィスも多いけれど、あくまで石鹸で手を洗う場所がない場合の代替品、と考えた方が良いそう。なぜなら「石鹸と水で手を洗うのがウイルスを殺すには最も効果的だから」とのこと。
「CDC(米国疫病管理予防センター)と我々医療専門者にとって、”手を清潔に保つためには手を石鹸でしっかりこまめに洗うこと” というのは超常識です」(ソンパル医師)
「アルコール除菌液でもウイルスや特定のバクテリアを殺すことができるかもしれませんが、石鹸と水のように手についた汚れやゴミを取ってキレイにすることはできません」(メリシオティス医師)
では、抗菌剤の入った石鹸を使うのがベストかというと、そうでもないとのこと。「普通の石鹸でも十分。CDCの研究によれば、抗菌石鹸を使っても効果がプラスされるわけではないそうです」とソンパル医師。
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石鹸と水がない場合、どんなアルコール除菌剤を選ぶべき?
「成分を良く確認して、アルコールが60%以上のものを選びましょう」(ソンパル医師)
「FDA(米国食品医薬品局)はエタノール、またはイソプロパノールが最大で95%まで含まれているタイプを推奨しています」(アネガワ医師)
「アルコールなしの除菌液はまだデータが少なく、安定した効果が期待できていないので避けましょう。また、アルコールに消毒作用があるからといって、自作するのは止めましょう」(メリシオティス医師)
テキサス大学感染症専門医のマイケル・チャン医師によれば「アルコール除菌液の中には、バクテリアとウイルスを防ぐとされるベンザルコニウムクロリドという成分が含まれているものもありますが、アルコールベースのものほどの効果は期待できません。ベンザルコニウムクロリドはノロウイルスには効果があるのですが、呼吸器系に症状をもたらすウイルス、まさに今問題となっている新型コロナウイルスや、季節風邪にはアルコールベースのタイプが好ましいです」とのこと。
「除菌液に含まれているアルコールそのものが防腐剤として機能しているため、アルコールフリーのタイプよりも安心。WHOもアルコールベースの除菌液を、重要な薬用品に分類しています」(チャン医師)
アネガワ医師はさらに、トリクロサンという成分の危険性にも注意を促す。「この特定の抗菌剤は、除菌液の効果を低下させるだけでなく、菌が薬に対する抵抗力を持ってしまう、つまり菌耐性を生み出してしまう恐れがあります」
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アルコール除菌液の使用と石鹸での手洗い、どちらもやり方が重要!
石鹸で手洗いをするにせよ、アルコール除菌液を使うにせよ、そのやり方を間違えていたらまったく意味がないも同然。どんなタイプの石鹸を使用するかよりも、どのように手洗いをするかが重要。話を聞いたすべての医師が、少なくとも20秒(チャン医師に至っては40秒!)のあいだ石鹸で手をゴシゴシ洗い、その後よく流すことを推奨している。
アルコール除菌液の効果ある使用方法にいたってはさらに厳しく、驚く人も多いかも。
「CDCは3ステップ方式(1. 手にたっぷり塗布 2. 手のひらをこすり合わせて手の表面すべてに除菌液を行き渡らせる 3. 手が完全に乾くまでこすり合わせる)を提言しています」(アネガワ医師)
WHOはガイドラインの中で、CDCの掲げるステップの2番目をさらに明確にするため、「アルコール除菌液を使用する際は、指を絡ませながら右の手のひらを左の手の甲にこすり合わせて、手のひら同士もこすり合わせて、指の裏側も反対の手のひらにこすり合わせるように」と説明している。
「アルコールベースの除菌液は、菌を分解することで効果をもたらすので、十分な量を要するだけでなく、十分な時間手に残る必要があります。完全に自然乾燥するまで手をこすり合わせ続けるためには20秒以上必要です。5−10秒ほどで乾いてしまう場合は、量が足りていないと言えるでしょう」(チャン医師)
続けて「結局のところ、手洗いでもアルコール除菌液の使用でもどちらでも良いので、頻繁に、継続して、しっかりと行うことが感染拡大を防ぐためには最も効果的。両方できる人は2つとも取り入れて問題ありません」ともコメントした。
自らの好みやライフスタイルを考慮しながら、無理なく続けられるウイルス対策を実践してみて。